その後は、無言で手を引かれて着いた先はアパートの一室だった。きっとはたけさんの住んでる家だろう。玄関で靴を脱ぐ暇も与えてくれず、なし崩しのように身体を重ねた。言葉なんて要らなかった。いや、無い方が良かった。

「……ん、」

次に目を覚ますと、ベッドではたけさんの腕の中だった。どこのタイミングで意識を失ったのか分からないが、服を着ていないのできっとそういうことだろう。目の前の彼は素顔で、ああやっと見れたなあなんて見惚れる。

…彼が目を覚ましてしまったら、もうこの幸せは終わるのだろうか。と、ふと思ってしまって瞼が震える。未来の映像を流して、透明な眼を見られてしまったのだ。あの時彼は火影様の元に行かなくてもいい、と言ったがきっとこれは別の話だ。……でも、

「このまま………、」

ここに居たいです、と本音が初めて漏れた。もう、あのキスから理性が働いてくれない。眠ったままのはたけさんの唇を掠めると、薄っすらと目を開けてくる彼にただ愛おしさだけが積もった。同時に、怖くなる。発せられる言葉は、きっと、

「……いいよ」
「え」
「ここに居ても、いいよ。」
「……っ私「二週間」
「え…?」
「二週間、だけだ。その後は…」

言葉をやめて腕の中に閉じ込められる。続きは聞かなくても分かった。その間だけの幸せでも、私にとっては十分だった。今あるこの温もりだけが、私にとって全てだったから。そんな猶予と、何も聞いてこないはたけさんがただ愛おしかった。

***

「ー……」

パンの焼けた匂いと、トントンと響く包丁の音。惹かれるように目を覚ますと、隣にはたけさんの姿はない。代わりに部屋着のようなものが置かれていて、微笑ましくなる。Tシャツと半パンだったが、着てみるとシャツがいい感じだったのでそのまま部屋を出る。

「おはよう。よく寝れた?」
「おはようございます…はい、もうぐっすりで」
「良かった。ご飯、一応作ってみたんだけど食べない?」
「いただきます」

テーブルに並べられたのは、焼いた食パンと目玉焼き。レタスだけのサラダ。牛乳。なんだかリアルで嬉しかった。この世界に来てやっとゲットしたリア充感だったから。…期限付きだけど。ちょっと甘酸っぱいけど。でもそれでもいい。

「……美味しい。」
「ありがとう。まあ、作ったっていうほどでも無いけどね」
「そんなことないです。嬉しいです」
「いい子だね、名前は」
「はたけさんには敵いません。」
「よく言うよ」

小さく笑ってパンを食べるはたけさん。今だに夢みたいで、不思議で仕方なかった。あれだけ恋い焦がれて、でも、必死に他人になろうとした。けどなれなかった。どうしても好きだった。

「「ご馳走様でした」」
「はたけさん、私お皿洗います」
「あーいいよ気にしなくて」
「いえ、そこは…」
「そう?じゃあ任せようかな。」

食器を持ってキッチンに回った。まだ夢か現実か定かではなくて、食器を洗うと言いつつも現実か確かめるように水に触れたかった。…冷たい。夢じゃない。緩む頬が止まらなくて、唇を噛み締める。すると、不意に腰に回された手に背筋がピンと伸びる。

「わっ」
「…今日ね、休みなんだ。」

耳元で囁かれて身体の芯が疼く。そのざらざらした声は、色気があり過ぎるので困る。いつものおちゃらけで、生はたけ最高!!とか言えないぐらい。頷くので必死な自分は意外とかわいい。

「名前のね、服とか色々買いに行こうと思ってたんだ」
「……あ、でもそんな」
「でも予定変更」
「!」
「これはお前が悪いよ…」

そう言って太腿に妖艶に這わされた指。…なぞられて、息が漏れる。だってはたけさんが貸してくれた服、Tシャツ大き過ぎるから。もう煩悩マックスな私にとって、彼シャツしか浮かばなくてつい半パンを履くのを拒否した。でも、多分、…

「……っ、大きかった、から」
「から?」
「下…履かなくても、いいかなって、」
「違うでしょ…?」
「っ」

耳元で囁かれた後、舌を這わされて微かな理性も死んでいった。太腿を撫でていた手は、もうお腹まで上がってきている。……ああ、私も欲張りになったものだ。、

「さわって、…ほしくて、」
「………あー…。思ってたよりもクるね」
「え、?」
「俺もそんな若くないんだけど、」
「…!」

太腿に押し付けられたそれは、硬くなって主張をしている。子宮が疼いた。欲しい、……

「…盛ってもいいですか?」
「……ぜひ。」

ふふふ、と自然と笑い合った。元々そんなに行為が好きじゃなかったのに、この人として分かった。ただ、好きな人を全身全霊で感じたいのだ。そして感じても欲しい、忘れないで欲しい。二週間後、あなたと永遠にサヨナラする日まで。