4日目。大変なことに気付く。

「ただいま」
「あ、おかえりなさい!」

残念ながら気配とか読めないので、単純にドアノブが回る音で帰宅に気付く。すぐに玄関までダッシュして、おかえりのハグを散らかすのが日課。それを絶対に受け止めてくれるし、そのまま横抱きでリビングに連れてってもらえるのが幸せ。今日はご飯を作っていた最中だったので、エプロンとおたま付き。

「今日は…お好み焼き?」
「そうです!すごい!よく分かったね〜〜」
「職業柄、鼻が効くもので。」
「アハハ。わんちゃんみたい。」

今日も服や髪をクンクンされて、ご飯を当ててくれる。これがすごいことに大体当たって、毎回忍ってすげーってなってるわけで。ふさふさの銀髪を撫でたら、弓なりになる片目も好き。その後は、大体マスクをずらして唇を寄せてくれる。きっと、たぶん今日も。

「…あ」
「え?」

つられるように顔を上げると、もうマスクを脱いでいたらしいはたけさんが降ってきた。この少し分厚い唇が堪らない。少し啄んでから顔をあげた彼と目が合うと、どちらからともなく額を合わせて微笑んだ。これは単なるバカップルでしかない。それでいい。今しかないのだから。

それから、私が作ったお好み焼きを食べた。料理は上手い方ではないので、美味しかったり微妙だったりとするが、正直今日は微妙に近かった。それでも、美味しいねと食べてくれる彼は本当にやさしい。

「名前」
「ん?」
「そういえばアイス、買ってきたよ。」
「本当!?ありがとう!」

食べ終わって一息していると、冷凍庫から私が好きなアイスをちらつかせてくれるはたけさん。いつの間に…。そのやさしいニコニコスマイルでさえ悩殺級だ。もう完璧すぎる。そりゃ大量に彼女が居たっておかしくもない。一時だけでも自分を見てくれたら、なんて余裕で思えるぐらい。そこではっと思い出した。……あの時、店に連れてきたグラマラスな女性のことを。

「な、なんで今まで忘れてたんだろ…。天才なのかな」
「?どうした」
「はたけさん、彼女いますよね?…ボンキュッボンの」
「え?どれだろう…」
「うわあ最低…」

ウソだよ、と下がり眉毛のままアイスを手に持って私の隣にやってくる。ソファに座ると、ん、と差し出されたそれをなんとなく受け取る気にはなれなかった。

「やきもち?」
「…一人間として、どうかと」
「うーん。まぁ、彼女ではないよ」
「ということは…」
「まあ…そういう関係?」
「セフレか!!」
「直球だな。間違ってはないけど」
「…だよね。」
「なんで急に?」

いやぁ、単に今思い出したんです。幸せすぎて今まで余裕で忘れてました。なんて言えない。し、たった二週間女が何を言うんだって話にもなる。その後もずっと一緒に居られるのなら、問い詰めたりできたんだろうけど。いないから。

「……嫌?」
「うーん…、そりゃ、まぁ…。」
「でも彼女じゃないよ。」
「…私が、その、…ワガママ言える立場じゃないって分かってるんですけど…」
「いいよ。言って?」
「……この、私がいる間は、…いやです。」

なんだか緊張して、ソファの上で正座してそれを伝える私。…そういう関係だと言われても、やっぱり胸にしこりが残る。彼女でない立場の私が何言ってんだって感じだけど。てかセフレって言い切るはたけさんすげーな。現実怖ぇーな。恐る恐る顔をあげると、呆れられてなくて、何か愛おしいものを見つめるような視線がそこにいた。

「……あ、の…?」
「…困ってる。」
「え…」
「可愛すぎて。」
「!?」
「俺のことどーしたいのよ」
「え…いや、その…」
「もう、俺にはお前しかいないのに」
「!」

やさしく引き寄せられて、甘すぎる飴がたくさん降ってくる。それは胸がギシギシいって、縮こまる音だった。…駄目だ、この人の甘さはクセになる。この人の温かさは…人をダメにする。好きだ、好きすぎて、どうにかなってしまう。二週間なんて無理だ、欲張りになってしまうばかりで、

「後さ、」
「…はい」
「俺の彼女になりませんか?」
「………はっ?」
「駄目、かな。」
「………………はい?」

欲張り、過ぎて、…現実が霞んだのか。唐突なそれを、理解するにはそうとしか思えなかった。私を少し引き離して、すごい近くで私を見つめたはたけさんが言った言葉。それ、は…私が想像する欲しかった未来を勝手に作り出したのか?でもおめめは使ってないし夢でもなさそうだしこれは一体、……

「ハハハ。夢じゃないよ」
「!!なんで、」
「そう、顔に書いてあるよ。名前はいつも分かりやすいからね」
「……!」
「そこもお前の魅力の一つだけど…」
「…も、もう!からかわないで下さ「でも今回は信じて貰うしかないんだよね。」
「!!」

そう言いつつ額に唇を落とされたけど、遅れてきたリップ音でその事実に気付く。顔が熱くなることを徐々に分かりつつも、あのマスク無しの美形に頭を撫でられて、かわいいね。と言われたらそりゃそうなるでしょう!!

と誰に切れてるのか分からないけれど、もごもごして言いたいことが言えずにいた。だって二週間女だしすぐ居なくなるし返事なんてそんなのできない…!と思っていたが、それに追い打ちをかけるように、私をまた少し引き寄せて耳元で彼が落としていった言葉。

「俺と付き合って?」

…頷く以外の選択肢が無くなりました(嬉しい悲鳴)。