いっっっぱい悩んで、職場のオーナーに謝りに行くことにした。

「…名前ちゃん。本当に行くの?」
「行きます。お世話になったわけですし、今も心配してくれたりするかもしれない」
「でも働かなくてもいいと思うよ…?俺、正直結構稼いでるしさ」
「だって暇だもん。」
「いやそんな言い方してもね…。可愛いけど。」

そこはつっこんでよ、なんて思う私は関西人ではない。が、今だけはつっこんで欲しかったよ恥ずかしい。もうタイムリミットが残り半分となった今日、任務に行く前のはたけさんにずっと考えていた仕事の件を話した。まあ優しくはあるがかなり止められた。地味に結構な口論をした上で、まだ言ってくるんだから相当行かせたくないのだろう。

「なんでそんなに嫌なんですか?働くの。一週間だけだし、それ以前に門前払いされるかもしれないですよ」
「いや。名前なら歓迎されるの分かってるんだ」
「…?」
「あのおじいさん、お前のことすごい可愛がってたから」
「……そう、ですか?」
「俺が言うんだから間違いないよ。」
「な、謎に説得力強め…」

あの時そんなに来てくれていたのか?と不思議に思ったが、記憶では二回だけだ。……どこからか見ていたのだろうか。ある意味怖くて聞けない。だって普通にしてそうだもんそういうこと…!と、怯えたが、ならよりいっそオーナーに謝りに行かなくてはならないのでは?と言えば、はたけさんは墓穴を掘ったような顔をしていた。

「今日行ってくるね!」
「…本当に?」
「しつこい。行くの。」
「俺といる時間が減っちゃうよ…?」
「!」

着替えるのを邪魔するかのように、後ろからやんわり抱き締めてくる。その言動が可愛すぎて心臓がきゅうきゅう鳴った。あー…、これで勝てる人いるのだろうか。見上げると捨てられた子犬のような目で私を見ていて、もう白旗をあげようかとほんの一秒だけ思った。ま、夢小説で鍛えられた私はこの可愛さに唯一勝てる人間なのだが。

「ま、負けないけどね。」
「えぇ…」
「はたけさんの可愛さ攻撃は慣れてるんです(夢小説で)。」
「今までやったことないと思うけど…。」
「ごめんなさい好きすぎてつい」

そう言って上目遣いをお見舞いしたら、観念してくれたようで小さく溜息をついて頭をポンポンしてくれた。よっしゃ勝った。と心の中でほくそ笑んでいたら、逆に後ろから首筋を甘噛みされて、若者が付けるキスマークを頂いてしまったのであった。

***

「オーナー、すみませんでした…!」

お店に行ってすぐ見えた顔に、そう言って頭を深々と下げた。オーナー(72)は涙を浮かべながら安堵した表情で、良かったよ、と言ってくれた。そこから心配したとか、家に何度行ったとか、忍を雇って探してもらったとかそんな話を聞いて、涙が溢れた。やっぱり来てよかったと思った。

お詫びと言ってはなんだが、一週間後に里を出てふるさとに戻るので(そういう設定にした)、それまでお手伝いさせてほしい、と願えば二つ返事を貰った。人手が足らなくてね、と言ってる側からレジの長蛇が目に入って微笑ましくなった。あの超絶スローリーなオーナーのレジじゃ、そりゃ混むよね。と思いながらレジに入らせて貰った。

「ところで名前ちゃん、今はどこに住んでるんだい?」
「あー…。ある人の元で、お世話になってます」
「それは俗に言う…これかい」

レジが空いてきて、先に休憩に入って貰ったオーナーと久しぶりの雑談。親指を上げてニヤニヤしているから、その示し方古いです、と言えばそりゃジジイだからね。とごもっともな返答をされて大笑いした。

「彼氏さんは、心配してないのかい?」
「え?何がですか?」
「ここで働くことをだよ。かなり心配症の男なんだろう?」
「……え、なんでそれを」
「ほれ、」

と指をさされた先は首筋で、はっと気付いた。今朝の若者印(言い方)のことを……!!脳裏に浮かんだはたけさんに全力で舌打ちした。こんな若者なもん付けてくれやがって…!オーナー72なのにえげつねぇ顔してるよ!!ニヤニヤ通り超してギヤギヤしてる!!ただのエロジジイみたいになってる!!

「……後で絞め殺しておきます。」
「彼氏さんも名前ちゃんが可愛くて仕方ないんだよ。勘弁してやってよ」
「…ですけど…、」
「僕はねぇ、応援してあげたいねぇ」
「…?」

店の外を見てにっこり微笑むものだから、視線がつられてその先へ。人集りが出来ていたのでそれを見ていたのかなぁと思うと、その中に銀髪が見えて一気に息が冷たくなる。ま、まさか……。と冷や汗が頬を流れた瞬間、こちらに振り向いたその銀髪。目が合うとあのいつもの溶けた笑みが襲ってきた。人集りが悲鳴の嵐と化した。

「愛されてるねぇ」
「………」

頼む。帰ってくれ。