たった一瞬の、短くて、楽しくて、私の存在意義を確実にしてくれた二週間が終わろうとしている。もうこの腕の中で眠ることも、この寝顔を見ることも、この温もりを感じることもない。そう思うと身体の節々がキシキシと痛み鳴った。すぐ泣きそうになるけど、泣いたら、もう意識を手放した彼にきっと気付かれてしまうから。

「……だいすきです」

だから気付かれないように、ちいさく、ちいさく呟いた。あなたの胸に染みこんで、あなたが忘れてしまっても、身体が覚えていますように、と。すると急に苦しいぐらい抱き締められる力が強くなって、愛おしさで息が細くなる。

「…俺もだよ」
「起きてたんですか…」
「うん。寝ようとしてるんだけど、眠ってくれなくて」
「…そっか。私も、です」
「一緒だね、」

はい、と囁くだけでおでこに唇を落としてくれる。…ダメだ、我慢なんて簡単に超えてしまうほど込み上げてくる。涙ってこんなに言うこと聞いてくれなかったっけ、と思うほどに声を押し殺して泣いた。すぐに気付かれて、濡れるのも気にせずに抱き寄せて頭を撫でてくれた。…私はこの手を離すしか選択肢がないなんて。

「名前…よく聞いて」
「…はい、」
「明日、火影様の元に向かったら…多分、名前は幽閉されると思う。何でかは…分かるね?」
「……はい」
「…俺も結構頑張ったんだけど、なんせお前は戸籍がないでしょ?それに…」

そう、言って、私の瞼にぎこちなく口付けたはたけさんに、あぁ、と酷く重たい音が鳴る。…彼は、全て知っていたのだ。私と、この、眼に……。それに目を瞑って、今まで何も聞かず、一緒にいてくれた……。…ある程度は、そうかと思っていたが、まさか眼までとは思っていなくて、。

「……ごめ「言わなくていい」
「言わなくて、いいから…」

隙間がないぐらいに抱き締めてくれる。全身から伝わってくるそれに、息が詰まる。漏れる息が好きだと言っていた。それは私も、彼も。…だから鈍らないでほしい。私の決心。

明日になったら、願うから。この眼の正解を。私含め、災史眼を知る存在全ての記憶から…消すことを。

……ただ、知らなかったのだ。眼の存在を消すと、連動して私の存在も消えるなんてことを。あの時の会話が悲しくも脳裏に過った。


……

おめめ、聞いて。私正解が分かった!
≪…ほう。合ってる。≫
嘘待って?せめて言わせて??思考読み取られてるのは分かってるけど…!
≪しかし、"私"の存在と一緒にお前の存在も忘れられるぞ≫
………………はっ?なんで
≪"私"とお前は悲しいぐらい相まって重なる存在だ。生死を操れるぐらいなんだぞ?切っても切り離せない≫
………あぁ……。そっ、か、……。
≪…≫
おめめの存在だけ私とみんなの記憶から消せれば、ハッピーエンド!って思ってたんだけどなぁ……
≪…すまない≫
いいよ…逆にこっちも3回も助けてくれてありがとう…
≪しんみりしたお前は気持ち悪いな…≫
同感だよ全く………。
≪しかしお前の望み通りになるだろう…≫
………だね

……


はたけさんが生きていてくれたら、それでいい。

「…ね。」
「…はい」
「一個だけ教えて欲しいんだけど、」
「ん、」
「一番初めに見た映像は…未来の俺の記憶?」

感傷に浸った後だからか大きく心臓が揺れた。やはりはたけさんは頭が良いな、と心の中で小さく微笑んだ。でも、絶対そうはさせないから。そう言うように首を振った。…勘の鋭い彼のことだ、気付かれているだろう、嘘だってこと。でも、でも…それでも。

「……そっか。ごめんね変なこと聞いて」
「…いえ、大丈夫です」
「あと、俺の独り言なんだけど」
「…え?」
「名前が幽閉されたら、俺が監視員になると思うから」
「…!!」
「ま、聞き流してちょうだい。」

嫌な音が身体を裂く、酷いほど。反応ができなくて、思わず動揺が外に出た。声は透明のままだが。…どうして、どうして未来に近付こうとするんだ。私がこれだけ…こんなにも引き離そうとしているのに…。やはり私ごとこの眼の存在を消すしか方法はない。こんな形で再確認させられては、もう、後には引けない。放っておけば、同じ結末を辿るだけなのだから。

「はたけさん…私「名前はさ、」
「…はい」
「未来を…知ってるかもしれないけど、でも俺は弱くないよ」
「!」
「だから、そんな顔しないでいい」

……ダメだ、気付かないで

「だから…名前の記憶は消さないで、」

どうしようもないのに、
恋いこがれてしまうから。