朝は、早く起きた。隣で眠る彼は、もう私を知らない。少しずつ身の回りの品を捨てていたおかげで、処分品はとても少なくて助かった。彼が目を覚ませばややこしいので、服を着替えて早々に外に出た。眼を消すなんて私自身の問題だから、その辺の物陰で行えばいいのだが…ただ、決心がないだけだ。自分の存在が忘れられることに。

「…まあ、そもそも私のこと知ってるの数人しかいないけどさ」

独りごちるぐらい、恐怖が勝っていた。…また、忘れられるのだ。それは、もう存在しないのと一緒だと前回で理解していたから。また職を探して、家を探して…。あの頃の思いをするくらいなら、眼と一緒に消えてなくなりたい。はたけさんとまた出会ったり…なんて、そんな夢小説は作り物の話なのだ。現実は冷たい。

≪名前≫
あ、おめめ…
≪お前が望むなら、叶えるぞ≫
…なにを
≪"私"と一緒に消えてなくなることを≫
……!…できるの?
≪戯け。"私"はもう完全体だ。お前の血さえあれば発動できる≫
あー…そっか、なんか大蛇丸がそんなこと言ってたっけ……。
≪お前が"私"に正解するのだ、それくらいはしてやる≫
…相変わらず上からだなぁ…。
≪どうする≫


それでも、いいなぁ。もう、ここに残ったって……。と、おめめに頷いた。ポケットに閉まっていた小さいサバイバルナイフを取り出そうと……、し………

……

≪名前!おい!≫
≪気を失……な!終…っ………ま……!!≫

……意識が、急に重たくなって、おめめが何を言っているのか分からなかった。ただ、重たくなるそれに抗えることなく沈む。何が起こっているのか分からずに。

***

「あら、起きたのね。おはよう」
「………」

目を覚ますと、真っ黒な視界。眼でも死後の世界でもないと思えるのは、被せられた黒に気付いたから。これは多分目隠しされて…いる。そして手足は何かに固定されているかのように重たく、付け覚えのあるソレ。きっと手錠か何かだ。そして……聞き覚えのあり過ぎる、声。

「…大蛇丸」
「声で分かるの?有能になったものね」
「……私、」

ここはどこ、と発した声は薄れていく。鼻が言った、以前も来たことのある匂いだと。……きっと、ここは奴のアジトだ。この時代に連れて来られたときにいたあの場所と、同じ匂い。…でも私、どうやってここに?さっき…おめめと一緒に死のうと思った。血を出すために、あのナイフを握る前、急に意識が遠くなって……

「お前、災史眼を殺そうとしたでしょう」
「…!」
「だから、お前に掛けていた術を発動させたのよ」
「……腰に付けたあの痣?」
「へぇ……。お前、本当に賢くなったのね」

舐められるように腰を撫でられて、吐き気だけが襲った。…この痣は、この時代に来てから出来ていたものだった。着替える時に気付いた、訳アリそうな印。眠っている間に大蛇丸に何かされたのだとすぐ気付いた。この時代で目を覚ましたとき、違和感のある腹痛を覚えていたのだ。

はたけさんとのあの二週間が始まった頃、まだ眼の正解に気付いていないとき、大蛇丸に眼を渡すつもりだった。ただ、意味もなく、この印に願えば大蛇丸に会えると思っていた。…それはある意味本当だったってことだ。

……だがその印のせいで、ここに呼び寄せられたのだ。私は。眼を消す、手前で……。

「勘が…鋭くなっただけ」
「そう。なら、お前が目隠しをされてる理由も分かるわね」
「……この眼を、使わせない、為…。」
「ご名答」

……力を使うには、私の血を流して、意志を強く持ち相手の眼を見なくてはならない。でしょ?おめめ
≪…そうだ。やけに落ち着いているな、名前≫
死のうと思ってたからかな、今何も怖くないの。それにおめめがいる
≪…ああ。機会を伺え、まだ終わってない。何かある≫
分かってる

「そこまでソレ(災史眼)を使いこなせるようになってるとはねぇ…」
「…そこまで使ってはない」
「そうね。はたけカカシの時、失敗したものね」
「!?どうして、それを」
「その呪印からお前達を見ていただけ…」
「……呪印、から…?」
「それは私の目だったのよ」

目まで身体の中に埋め込めるの?怖っ。キモッ。ドン引き。ノット人間技。なんてふざけて思えるくらいの余裕はあった。でもそれは、…多分薄々感じていたからだ。それを認めたくなくて、知らないフリをして。

「全てはお前の眼を奪うため…」
「…やんないよ」
「ああ、いいねぇ。その威勢…いつまで続くかしら?」
「…」

薄々、じゃない。この視界の無い中でただ、絶大な脅威を感じさせられる―――

「殺すわよ、お前の大切なはたけカカシを」

―――……この男には適わない。