この歳になって、やはり一人を選ぶべきではなかったとたまに思う。

教え子達は皆結婚し、もう下忍の子供たちがいる。ナルトは火影として何とかやっているみたいだし、隠居した俺は悠々自適に暮らして、別にお金にも困らずそれなりに楽しい生活だ。

今まで何もなかったわけではない。それなりに彼女もいたし、結婚を考えた奴もいた。…まあ、かなり曰く付きで幽閉される手前のような子だったが。その子が急にいなくなって、何年かは探したりもした。だが見つかることもなく…、適当な女と遊んだり、彼女を作ってみたりもした。けれど何だか、全て違った。しっくりこないというか…、お前じゃない。みたいな。

…なんとなく理由は分かっていた。行方不明者が見つかったなんて話を聞くと、どうしても気になって確認しに行く自分が答えだった。あいつ…名前は、

名前は、俺が唯一愛してると思えた女だったから。

伝説の眼を持っていたとか、正直どうでもよかった。里的にはよろしくない存在だったから、与えられた猶予はたったの二週間。それでも、俺は本気で幸せだと思えた。…初めて、会った気がしなかったんだ。

きっと前世かどこかで出会ったことがあるんだよ、とあの時俺が言ったら、名前は切なそうに微笑んで、そうだね、と言ってくれたあの顔は多分死ぬまで忘れないだろう。…ただ、愛おしかった。

ただ、そんな名前を一瞬だけ忘れた時があった。数日経ったら自然と思い出したが、そんな自分を全力で殴りたい。

……まあ、それほど想った名前を超える女が居なくて、俺は今一人を貫いている。やはり妥協はすべきか、ともう何回これを思ってんだろうなぁ、俺は。と、自嘲した夜中3時を過ぎのこと。

***

「…ん………、……?」

重たい目を開けると、怪しい雰囲気が漂う森だった。…そういえば大蛇丸に眼を渡した後は木の葉に戻すって言われてたっけ。ならここは木の葉で…しかしなんだか見たことのある森…。と、一瞬で眉を顰めるとすぐに思いつくソレ。………ま、まさか?

「……また死の森スタート?」

独りごちてみた。…今回は誰かに見つけてもらえたりしないのだろうか。でも時代を超えたわけじゃないし、そういうの無しタイプ?とか思いながら歩いてみる。歩くの面倒だし見つけてもらっても…。と思ったが戸籍がない事実に肩を落とした。…でも眼はないし、それまで危険視されないし何とかなる?

とりあえず、どっちが木の葉か分からないまま歩いていた。…でも私、木の葉に戻る意味ってあるのかな。と、思った瞬間足が止まる。はたけさんはもう私を覚えていないわけだし。

…でもおめめの存在を消すことが出来なかったから、私の存在はあるわけで、オーナーとか、はたけの輪のお姉さん達とか、シカマルは私を覚えているっけ…?なら、生きる為には戻ってまた働かせて貰うしか

「動くな」
「えぇ…?」

急に背後から両手を取られて、首元にクナイが当てられていた。いや急だな!!気配無くない!?…あぁ暗部的なノリかそうだ絶対。あの…と声を発した瞬間、首を軽く殴られて意識が沈んでいく音がした。…ねえこれ誘拐ですよ……。

完全に意識を失う前に、俵担ぎのように背負われていることに気付く。あぁ、これ気持ち悪くなるやつだよ…。いつぞやかの、ゲロ吐いた時みたいな……。なんて思いつつ意識を手放した。

***

スリーマンセルでの任務帰り。最後の任務として、立ち入り禁止である死の森をいつも通り巡回しているところだった。まあ毎回何もないので、サッと見て早く帰ろうと思っていた…ら。まさか、居るはずのない一般人が歩いていた。おいおい嘘だろ…何してんだ。そもそもどうやってここに入った?と思いながら三人目を合わせて、対象から離れて配置に着く。

……監視すればする程、悪意のなさだけが伝わってきた。それより、目的なく歩いているような感じがして不思議だった。そして、ふと、薄れた記憶が脳裏を過る。

「………カカシ先輩の、」

そうだ、何となくだが先輩が言っていた探している人に似ている。…気がする。根拠はほぼないに近い。ただ、容姿と雰囲気だけだ。……まあ、木の葉に連れて帰らなければならないのは分かっていたが、こんな、…こんな理由で僕は動いていいのだろうか。

「動くな」
「えぇ…?」

僕の存在に気付かなかったようで、簡単に意識を飛ばしてくれた。…本当に一般人なんだな。なら、カカシ先輩が言いにくそうにしていた理由が分からなくなった。…ただ、本気でその女を探しているのは間違いないようだったが。

班の仲間を集め、女性といえど俵担ぎして運ぶ自分にふと違和感を覚えた。……少し前に同じようなことが、あった気がする。いや、ないんだが。…この感覚がなんとなく初めてな気がしなかった。