玄関前にテンゾウの気配がして眉を顰める。…嫌な起き方過ぎるわ夜中過ぎるわで迷惑でしかない。…が、もう一人違う気配がして何となく胸が騒めいた。この動揺は…。と思いつつドアを開けると、暗部服のテンゾウと…その腕に抱えられた姿に目がこぼれ落ちるほど見開いた。


…、……幻かと、思った。


思い出す度に存在の大きさを知って、知りすぎるから、歳を重ねるごとに勝手に自粛して、なかったことにしようとした。俺にとってあの子の存在は大きすぎて、現役時代、自分の弱みになると思っていた。だから必死に消して、…でも全然消えなくて。当たり前に残る残像は、切なさだけを誘うから。…残像が、残像でなく今、この瞬間に映ったら?なんて何百回考えたか。それが現実に起こるようなら、そんな、夢のようなことは…

ただ身体に染みこんで流れていく。涙と、して。

「………名前……、……?」
「…当たりですか?」

眉を下げて困ったように微笑むテンゾウから、貰うように彼女を抱きかかえた。ちゃんと…重い。生きてる。…なんて、何を感じても泣ける俺をどうにかして欲しい。……触れた箇所から温もりを感じて、ああ夢でないと理解できた。全然理解が追いつかないし、何で急に、とばかり思う。

今まで、今までどこに?
どうして歳を取っていない?もうあれから17年は経っているのに。

疑問ばかりが頭に浮かぶのに返答が掴めない。ただ思うのは、死んでなくてよかったということ。自殺しようとしたこともあったからかなり危惧していた。でも、本当に、本当に……よかった。

「……一体、」
「死の森を巡回中に、歩いているところを発見しました。」
「…死の森?」
「はい。ナルトの元に連れて行こうと思っていたんですが……」
「……先に連れてきてくれたのか」
「以前、カカシ先輩が言っていた子に似ていると思って…」

本当はダメですし、間違ってたらどうしようかと思いました。と笑うテンゾウは本当に良い後輩だ。いや、すぎるぐらいに。心からありがとうを伝えると、素直すぎて気持ち悪いと言われる始末だ。それですら感謝できるぐらい、腕の中の存在は尊い。あの頃の、名前のまま過ぎて、ずっと夢かと錯覚する。それほどまでに落ちてきた現実は奇跡で。

……色々考えることは、正直かなりある。けれど、今は…今、だけは

「……ありが、とう……。…」
「、それ僕に言ってます?」
「……どっちも、かな」
「本当……、。明日には(ナルトの元に)連れてってくださいよ、その子」
「分かってるよ…」

この奇跡を、噛み締めたい。

ほぼ、諦めていた。15年以上も経っているのだ。再会はできないものだと、そう思い込むことに必死だった。でもほんの、ほんの片隅で奇跡が降ってこないかと願っていた自分もいた。もう何年も経っているのに、女々しい自分に呆れたことしかなかったが、それでも。それでも…

テンゾウが去って、俺はその場でただただ名前を抱き締めた。これまでの年月の隙間を埋めるように、ただ、じっと、温もりを感じながら。呼吸するその動作さえ愛おしいものだから、俺はやはりこの子でないとダメだった。涙が止まらない自分に呆れることを止めた。

「…もどってきて、くれて、…ありがとう……。」

俺の、たったひとりの愛しい人。

***

息苦しい…というか、身体苦しい。というか。とりあえずどこからともなく締め付けられて苦しい。でも不思議と嫌ではなく、……どことなく温かい。なんだろう、私、知ってる……?なんだか視線を感じて視界をゆっくり開け……、…

「…………え?」
「おはよう、名前。」

弓なりに曲げた両目が至近距離で見下ろしてくる。…そりゃ、知った温かさだった。隙間もないほど抱き締められたまま、ベッドに一緒に寝転ぶのはあれほど焦がれた…はたけさんがいた。

「………」
「…ん?どうした?」

あり得ない状況についガン見したら、微笑んでくれたはたけさん。…………あ、夢か。そうか。まさか本物がいるはずなんてない。もう、よくできた夢だ。最近の夢は抱かれてる感覚も温もりも分か……分かるわけないね!!?

で、でも待て。彼の私に対する記憶を消したのは、私的に最近でよく覚えてる。から、私のことは知らないはずだ。でもこの視線も雰囲気も全てが覚えているよと伝わってくる。な……なんで?てか森にいたのに目覚めたら急にここに居ることも不思議すぎるしで……。だからはたけさんの目が、黒い……の…も……、え?

………いや待て。私がいた時代はまだ写輪眼があった頃の彼だったわけで、無い時代の頃にも会ったことがあるけどそれは次世代にいた時で……、…はっ?

まさかここ17年後?ん?………また?