爆発の煙の中から出てきたのは、……あの大蛇丸だった。ある意味やっとご対面、というところだが…生大蛇丸はビックリするぐらい気持ち悪い。肌の色といい髪の長さといい…人間離れがすごい。そしてこの異様なオーラ。こんな私でさえ分かるぐらいだ。

出来れば会いたくはなかった。いずれかは会わざるを得ない人だったとは思うが、こいつは私の眼を狙ってる奴であって、あの惨劇を引き起こした張本人であるからだ。シカマルは私を降ろすと、私を庇うように一歩前に出て身構えていた。

「あぁ…お前、この前暁の角都と飛段を殺ってくれた子ね。」
「…お前の為に殺ったんじゃねえよ」
「猿飛アスマの敵討ち、ってところかしら…?上手く行ってよかったわね」
「…!」

一歩一歩近づいてくる大蛇丸とシカマルの会話で確信した。やはりここは二部で、場面で言えばアスマ先生の敵討ち後…ということらしい。あのシーンは確かはたけさんも隊長として同行していたはずだ。……ならばきっと写輪眼の使い過ぎで、木の葉の病院にいる。

それを分かったところで何をするのだろう、私。…会いに行ったところで、はたけさんは私を知らない。彼が私を知るのは、その十数年も後だ。……なんて動揺しながらも、大蛇丸が近付いてくる足が止まって、私の思考も止まる。

「大人しくその子、渡して頂戴。そうすれば木の葉に危害は与えないし、君も見逃してあげるわ」
「…っ!」
「…!一般人に何の用だ?大蛇丸」
「その子は私が今一番欲しいものを持ってるの。…伝説は存在したのよ」
「伝説…だと?」
「ええ。いずれ木の葉に返してあげるわ。だから名前…こちらに来なさい。」
「………」
「またあの惨劇を繰り返したいの?」
「惨劇…?」
「!!」

はたけさんの件を知っているかのような口ぶりに、心が冷えた。やっぱりこいつが…!シカマルが一瞬私を見て、その表情に気付いたのか眉を顰めて大蛇丸に視線を戻した。

「訳アリってか……!」
「私はそんなに気が長くないわ。…さあ、お前の選ぶ道はここしかないのよ。名前」
「……っ、」
「惑わされるな!よく考えろ!」
「…お前は何故名前を庇う?どうせその辺で拾っただけでしょう」
「…!」

大蛇丸の言葉はその通り過ぎて、言葉を飲む。でも、本当は分かってる。あちらに行かなければ私どころかシカマルも助からないということを。…でも、大蛇丸について行けば、多分私の眼ごと取られるのだろう。その恐怖が、シカマルの服の裾をキュッと握ってしまうのだ。そしてその気持ちを、彼は感じ取ってくれている。だから私を置いて行けないだけだ。

この手を離せば済むことなのに、…弱くてごめん、シカマル。と心の中で謝った。それを聞いているはずもないのに、彼は、

「んなもん知らねえよ…!困ってる女がいたら助けんのが当たり前だろーが…!」
「…………!」

……本当、格好良すぎて涙が出る。同時に、こんな所で殺されてはいけないと思った。この人は木の葉にとってすごく大事な人なんだから。覚悟を決めると、シカマルを庇うように前に立つ。無意識に歯を食いしばった。…血の味がした。

「!っおい「行きます」
「…!!いいのかよそれで!」
「良いんです。そうしないと、あなたは助からない」
「……!!」
「ククク…。良い判断ね。さあ、こっちにいらっしゃい」
「…」

一歩、二歩、と大蛇丸の方は歩けば、手を取られて足が止まる。振り向くとシカマルが必死な顔をしていた。…ああ、良い人だ。本当に。だから、……私のことは忘れてください。関わらないで、ください。はたけさんのようにさせたくない。

「待て!!」
「……大丈夫です。ありがとう、シカマル」
「…!?なんで俺の名前…」

眼を見開くと、彼は意識を失ってその場に倒れる。それを受け止めると、大蛇丸から歓声が聞こえた。…本当に虫唾が走る奴だ。

「…どうせこれが見たかったんでしょう?」
「素晴らしい……!!伝説の災史眼…、ああ…私の災史眼…!」
「……」

今なら何となく分かる。私は多分、ミリンさんの術に掛けられてこちら(二部)の世界に飛ばされたのだろう。そしてわざわざシカマルに見つけさせ、わざと危険な状況に陥らせ…この眼を使うように仕向けた。つくづくクソな奴だ。

しかし私自身も分かっていないのは、この眼の使い方だ。何かが引き金になっていることは間違いないのだが、それが何かよく分かっていない。…まあ、故意に使うつもりもないから知らなくても良いのだが。

シカマルをその場に寝かすと、大蛇丸の方へ歩き出す。彼が次目覚めた時には、きっと私という記憶はない。…はずだ。

「さぁ、行くわよ」
「……」

シカマルにありったけのありがとうを伝えた。私なんかの為に、守ってくれてありがとう。…心の中でしか伝えられないことが、これからいくつ増えていくのかと眉を顰めながら。