あれから一ヶ月。あの日、なんとかシカマルから脱走(?)したはいいが行く宛ゼロだった私。お金もないし戸籍もないしこれこそ本気で絶望的だった。野宿も初体験、何日もご飯を食べずにいて、3回目の死を意識しだしたとき。コンビニらしき店の求人をどんよりした顔で見ていた私に声を掛けてくれたのは、そこの店のおじいさん(オーナー)だった。

「…名前ちゃん、ひまだねぇ」
「お昼過ぎたからですよ…また夕方になったらあのエグいのきます」
「ずっとエグかったらいいねぇ」
「死にますね」
「あぁ、先にお昼行きなさい」
「あ、いいですか?」
「うん。その辺のもの適当に食べて良いよ〜」
「いや駄目でしょ買います」

天然ボケなのかただのボケなのか分からないオーナー(72)に促され、おにぎりを二つ買った。単価を半額以下に変えようとするから、正規で買います!!とつっこんだ。ヘラヘラ笑っているも、こんなオーナーだがとても感謝している。私の言えぬ素性を見逃して拾ってくれて、木の葉で初めて、私の存在を認めて赦してくれた人だから。

分かってる。きっともう私が育った世界には戻れない。この眼があるから。逆に、この眼も無くならない。なら主要キャラに関わらず、この眼も大蛇丸に奪われないように生きていくだけ(譲渡なんかしたら世界が終わるよ)。

細々と生きて、完全モブキャラの里人と適当に結婚して子どもを生んで、そんな未来でいい。…はたけさんを死なせたくないから。、予言の書通りなんかになってたまるか。

しかし、そう上手くもいかず……懸念すべき点があるのも事実で。

「名前ちゃーんレジ入ってー」
「あ、はーい!」

休憩から戻ると、夕方だからかレジに長蛇の列。…いや違う、オーナーはやたらとレジが遅い(72)。この時代の木の葉はまだコンビニ的なものが少なく、かなり重宝されているようで。それに加えオーナーがレジときたら…目を離すとすぐに列が出来る。

2台目のレジを開けた。残念ながらもう手慣れてしまったので、すいすいと客をさばく。そして、私のレジの列の最後尾に並ぶ見知った顔。…そう、これが懸念材料。

「よ、」
「…ああ、どうも」
「んだよつれねえな」
「いつもです。はい金ください」
「へーへー、」

そう言って唇を尖らせるのは、…何の因果なのか。あの日よく分からずに記憶を変えて逃げた彼、……シカマルだ。

一週間前、起爆札は売ってないかと聞かれてかなりアタフタしてしまった(結果あったけど)。いや、ある意味それだけなんだけど。謎に彼の目に留まってしまって、今に至る……。モブキャラをあれだけ意識していたのに不覚だ。でも回避の仕方なくない!?(あいつ客)

…て、いうか一応あの時の記憶はないんだよね?だからこんな接し方なんだよね?もし記憶あったらすぐさま火影様の所連れて行かれるよね?監視してるとかじゃないよね?突然思い出したりしない?なんてもう軽く何十回も思ったことだった。だってこんな偶然なんてあってたまるか。

「店員、お前とあのオヤジさんだけか?」
「今のところそうですね」
「人足りてねえな…」
「ええ…」

だから私みたいな素性不明な奴も雇って貰えるんです(もちろん言いません)。と思いつつも、シカマルの後ろに誰も並んでいないので流れ的に雑談タイム。こちらとしては早く去って欲しいのだが、5分ぐらい話し込んだりしてる。これも毎回のことなので、慣れてきた感じがつらい。でも今日は、今日はなんだかもっと嫌な予感がする。

「雇えばいいのにな」
「なかなか応募ないんですって、オーナーが嘆いてました」
「俺が忍じゃなきゃなぁ…」
「いいんですよ、手伝ってくれても」
「お前な…」
「先に言い出したの奈良さん」
「酷ぇ店員、」

まあ、アレを思い出されない限りは二推しのシカマルと話せているので嬉しいのだが。やっぱりちょっと怖いものもある。だからだろうか、今日のこの嫌な予感も。酷く、身体の奥が何かで焼かれているみたいな、焦燥感。早くこの人を帰さねば、と思うほどに引き寄せていたのかもしれない。

「……!」

…それこそ災害だと思うほどに。

店の扉を開く、猫背の長身男性。隣を歩くのは、胸元をよく開けた色気のある綺麗な人。厭らしく腰に回っている手が、私を後ろから抱き締めてくれた時のものと酷く被る。心臓が左右に揺れて、吐き気だけが襲った。

「こんな時間から何してんすか…カカシ先生」
「ん?なんのこと?」

痛い。痛い。痛い。これが現実。