「つーかチャクラ切れは治ったんすか…」
「当たり前じゃない。かわいい子に元気もらったからね」
「ふふ、カカシさんったら」
「今日も…ね?」
「もうっ」
「……よそでやってくれ」

溜息をつくシカマル越しに見える、私的には一ヶ月ぶりになるはたけさんは、あの頃と違って片目を隠していて。

……写輪眼がまだあるんだとか、当たり前かもしれないがこの時代で彼が生きてることとか、それがとてつもなく嬉しいくせに隣の女の人誰とか、シカマルの言葉からして取っ替え引っ替えしてんだろうなとか、喜怒哀楽がぐしゃぐしゃになって、

「……名前?」
「…あ、はいなんでしたっけ」
「お前…、なんで泣いてんだよ…」
「え?」

慌てて頬を拭うと手を何かが濡らして、本当に泣いていたんだって分かった。泣くタイミングってどこだったの私。驚くシカマルの表情も分かる、だって急に目の前の女が泣いたらそりゃ引く。謝って裏に行こうとすれば、どうしても目に入るはたけさんの姿。

―――ふと目が合ってしまって、まぶたが揺れる。やっぱり好きだと思った。つい最近まで未来のあなたと一緒に居たんだよ、私。でも死を選ばせてしまったから、ここでは絶対近付かないつもりだった。もし出会っても、印象に残らないようにしなきゃいけないと思っていたのに。

溢れる好きという思いは、自分が思ったよりも大きくて。そしてそれと同じぐらい、隣の女に胸が焼ける想いがした。

「……すみ、ません」
「…」

不審に思われただろう。突然泣き出す女とか、情緒不安定かって感じだし。証拠に、はたけさんは怪訝な顔しかしてなかった。バックヤードに入ると、オーナーがキョトンとした顔をしていた。でも、何も言わないでいてくれた。

「名前ちゃん、休憩行くかい」
「…………はい。すみません」
「うん、いいよ。これあげるね」
「……」

なぜか食べかけのクッキーを貰った。オーナーなりの優しさだろうか。不器用だな相変わらず、と思うけれどそれですら涙が溢れるからよっぽどだと思う。

あの頃のはたけさんは、私の彼氏でも何でもなかった。ただの監視員とその対象者なだけ。なのに、何でこんな気持ちになるのか。ただ悲劇のヒロインぶりたいだけかな、だって今の私には何もないから。

……しかし、やってしまった。

「なに泣いちゃったりしてんの……。」

あれだけ主要キャラに関わらないように頑張ってきたのに。…一瞬で台無しだ。あーー忘れてくれないかな…。おめめ頑張ってよ……。

貰ったクッキーを齧ると、少ししょっぱかった。涙味みたいな。古…。

***

「……シカマルの知り合い?あの子」
「…まあ、そんなとこっす」
「泣いてたけど…」
「……」

任務終わり、小腹が空いたからあいつがいる店に寄って、いつも通り雑談している時だった。あの感情を表に出さない名前が、初めて取り乱した。俺じゃなくてカカシ先生ってのが癪に触るが。女の腰に手を回したまま、少し不審な顔をして首を傾げる。

「俺に片想いでもしてたのかな。」
「カカシさん…っ」
「ん?大丈夫、俺あの子知らないからね。さ、行こっか」
「はい、」

だからよそでやってくれその茶番…。と思えるぐらいの会話だった。その人、いつまで続くんすか?と聞きたいぐらい。まあ、野暮なことに口は出さねえけど。

「シカマル、またね」
「…せいぜい大人しくしててください」
「はいはい」

手を振って店を出て行くカカシ先生達を謎に見送った。…名前は、大丈夫なのだろうか。本当にカカシ先生が…とかだったのか?あいつがそんなことで泣くようには思えない。ただ、カカシ先生と何かあるのは絶対だった。次、聞くべきか知らねえフリすべきか…。と頭を抱えながらその場を去った。