絶対ヤバイ奴だと思ってた。思ってたけど、まさか、まさかこんな……

「……何、してんですか…」
「あぁ、名前ちゃん。こんな所でどうしたの?」

たまたま、だった。仕事終わり、結構な量を飲んでふらふらとタクシーを探し歩いていたら知らない間に裏路地に入っていたようで。ラブホ街というより、ヤクザ系のそっちの危ない匂いを感じて早く去らねばと思っていた。

そしたら10階建てぐらいの鉄筋ビルの前に、いかにも高級そうな黒い車が停まった。ビルの中からぞろぞろと怖そうな人間が出てきて、その中で一際目立っていた灰色のスーツ。髪も銀色で、どこか見たことのある人だと思った。その人と目が合って、あぁ終わったと思った。…義理の兄だった。

「…やっぱりサラリーマンなんてウソだったんですね」
「嘘でもないよ。ここの会社の社長だよ、俺。」
「……会社、には見えませんけど。」

と、銀髪の周りの人を見れば、様々な方面から啖呵が飛んできて本場怖っ!てなったがすぐに、銀髪の制止の声で無くなった。……あぁこれガチじゃん……。

「ちょっと見た目が悪いだけだよ。」
「…(ちょっとどころじゃないけど)」
「で?今何してたの。こんな所一人で歩くもんじゃないよ」
「……酔い覚ましです」
「酔い?」

そう言って人集りの中から私に近付いてくる銀髪。頭!とか言われてるけど無視してる。…てか頭って…かしら…。……マジでガチ!目の前までくると、顔を近付けて来られる。くんくん、と何かを嗅がれているようだ。

「…確かにお酒臭いね。名前ちゃん、お酒強くないのにどうしたの」
「……別にアンタに関係ないですよね」
「っオイてめぇゴラァ!頭にどういう口の利き方「黙れ」
「…!」
「…すんませんっした」
「…(怖ぁ)」

部下っぽい人を制止する声も、目も、視線も、その表情も…家では見たことのないものばかりだった。本当に同一人物なのか?一卵性の双子とかじゃなくて?…また私に視線を戻すと、家で見るような溶けまくったやさしい表情だった。それで気が緩んだのか、抱き締められてハッとした。いや何されてんだ私!

「…っちょ、っと!」
「こんな可愛い子が一人で歩く場所じゃない。一緒に帰ろう」
「……っ嫌だ離してっ…!」
「うん、ごめんね。」
「!?」

私の言葉は華麗に無視され、抱き上げられて目が点になる。その後すぐ暴れようとするも、上から降ってきた柔らかいそれに口を塞がれて息がとまった。

「…!?」
「…ん、ご馳走さま」
「〜〜!?アンタ何してっ…」
「可愛い唇につい誘惑されちゃったみたい。」
「みたい、じゃなくて…!」
「もっとして欲しい…って?」
「!!違うから!」

暴れても暴れても降ろしてもくれないので、渋々されるがままになる。あの厳つい高級そうな車の後部座席に座らされて、反対側から銀髪が乗ってくる。運転席じゃ…と思ったが、そこには運転手らしき人がいた。…はぁ。まぁ、もう乗ってしまったし仕方ない。タクシー代わりだと思って、家まで…

「俺の家まで行ってくれる?」
「かしこまりました」
「…何分ぐらいで着きますか」
「10分ぐらいかな、寝ててもいいよ」
「………はい……、」

私んちってそんな近かったっけ…。と思いつつも眠気に勝てずに意識を手放した。