21時過ぎ。ぽつぽつと橙色の街灯が街を照らす。雨の残り香が、無言の帰り道を彩っているかのようだ。苦ではないけれど、何ともいえない空気。隣に歩くのはなんとなく違う気がして、2歩ぐらい遅れてその背中を追った。

「…お前さ」

歩く足は止めないまま、飛んできた言葉。どんな表情をしているかは分からない。でも、たぶん、…言いたいことは分かる気がした。

「しっかりしろよ。いつも俺が居るわけじゃねーんだから」
「……うん。ごめん。」
「これで分かったろ。…あいつら・・・・がどういう奴らかって」
「…」

…シカマルは、分かっていたのか。あの二人がグルだって。仕事が出来てイケメンでも、しょうもない下半身ならば話は別だ。その思惑に引っかかって、片方としてしまった私には絶望でしかないが。これも奴は知ってるのだろうか。…いやさすがにないよな。と、信じたい。
そんな顔が思い詰めたように見えたのか。まァ、と少し軽い声が飛んでくる。

「とりあえず飲み行くか?」
「………行く!!」

やっぱりシカマルは最高の同期だ。

***

視界がぐわんぐわんしている。飲み過ぎた。あー…もしかしたらあの事件はすべて夢だった?と、浮上する意識の中ぼんやり思う。それが希望であることぐらい、少しは分かっているのだが。
……視界が色付くと、見えたのは自宅の天井。どうやって家に帰ってきたんだっけ…?と少し起き上がると少し離れたソファに座っているシカマルの姿が目に入る。そして酷い頭痛がすぐに襲ってくる。

「大丈夫か?お前帰り道ぶっ倒れて…熱があんなら呑むんじゃねえよバカ」
「…」
「、名前?」

反応しない私に気付いて、近寄って額に手を当ててくれる。ひんやりして気持ちよかった。そうか熱が…。だからこんなに酔ってしまったのか。でもまだ熱に魘されたままでいいらしい。理性が死んだあの日からずっと、私は熱に侵されているのだろう。だからこの湧き上がる感情も全て、私のせいなどではない。

「どうした…?しんどいのか?」

心配そうな目で見つめてくれるシカマルは、どう思うだろうか。純粋な心配をしてくれている彼なのに、私はこんな欲情に塗れていることを。酔い過ぎてる、分かってる。同期だ、分かってる。いっそ嘲笑ってころしてくれればいい。その手を取って、一緒に地獄へ引きずり込みたい。もう、…どうしようもないのだ。

忘れられない、あの興奮を。

「…シカマル」
「早く寝………、」

唇を寄せて遮った。至近距離で視線が合うと、疼く身体の芯。手を出したら、絶対に後悔する。分かっている。それでも、欲しくて、欲しくて欲しくて欲…

「……高熱だ。もっかい寝ろ」
「…イヤ」
「おい…」

肩を押して距離を取られる。けれどもう、あの日知ってしまった欲を止められない。私から抱き付くと、決して強くはない力で離そうとしてくる。でも知ってる。あなただってどこかでこの先を期待してること。堕ちるはじまりほど、簡単なものはない。証拠に、服越しに触れた彼の下半身は形を帯びていた。

「っ止め「おねがい…」
「…これ以上煽んな。俺も男なんだよ」
「うん…だめ?」
「……っ」

私の差し出した手を、拒まないで。そしてそのまま一緒に堕ちて、ぬるい地獄で欲を交わそう。もう愛より欲に堕ちた私を、どうか愛して。一生私をその熱で満たして、焦がして、駄目にして。

「ばか、やろう…。」

伸びてきた掌に被せた私の手。温かくて、やさしくて、痛くて、ぬるくて、居心地が悪かった。だって、サスケくんのような配慮に欠けたそれでなかった。…ああ、

もうどうしようもないくらい深みに嵌ってしまうのだろう。だから静かに底地で眠ろう。この生温い愛情に似た欲情で、目を霞ませてくれるだろうから。そうして今日も世界は色を失って、狭まって、小さな呼吸でさえ幸福に感じてしのうね。

覆い被さってきた彼の体温は、酷くやさしくて辛くて、甘かった。両脚が、沼に嵌った音がした。首筋を伝う彼の舌は、クセになるのだろう。互いに表情が見えなくてよかった。と、思っていたのは私だけだと、おもっていた。


「…」


ほくそ笑む彼は、夜に紛れて。