あーあ。好きなだけなんだけど。

「正直重い。もう俺に連絡してくんな、頼むから」

どうして?何言ってるの?私が一番、アンタのこと好きだと思うよ?なんて、勝手に泣きながら画面先の奴に投げた文字。既読の文字がすぐについたのに、レスポンスはない。これ永遠返事ないやつ、と即座に思っても投げ掛ける言葉が止まない。ヤメラレナイ。すればするほど離れていくと分かっているのに。矛盾は私をひたすら殺していく。あーあ。今回もダメだった。ただ、好きが積もっただけじゃないか。

どうして勝手に曲がっていくんだ?


……

「んーそれは名前がメンヘラだからじゃない?」
「は?どこが」
「全部かなあ…。」
「有り得ないんですけどクソうざ」

そういうこと言わないの、とヘラヘラと笑って頭を撫でてくるのは不良銀髪(29)。そんな髪でよく医者やれてんなといつも思う。でもそれを言うと医者だからできるとかクソみたいなことばっか言う。私(21)はこんな医者になんか絶対なんない、とベッドで寝転びながら隣に座るエセ医者を睨み見上げた。

「でもこんなに名前に好かれてるのに、逃げる男も男だな」
「そうだよ。普通嬉しいことじゃないの?」
「俺は嬉しいけどね。大歓迎」
「キモい無理」
「…その口の悪さも男が逃げてく原因の一つじゃない?」

呆れながら微笑まれても痛くも痒くもない。まあ、普通の女ならこれは悲鳴ものに値するかもしれないが。頬を撫でられても、心は微塵とも動かない。…それもそうだ。

「いや、これお兄のみ。彼氏には優しいから」
「優しさ通り越して重たくなってんのに?」
「一言多い黙れ」
「昔は可愛かったのになぁ…。」
「はぁ?今もでしょうが」
「それはそうだよ?」
「昔も今も、に訂正」
「名前は何してても可愛いよ。昔と違って、色気もあるし…」

寝転んでいる私に軽く覆い被さってきて、それが普通かのように唇に触れていく。…さっきまで付けてたマスクはどこに捨てたんだ。無表情で距離2pの不良を見つめる。

「お兄、すぐ盛っちゃうな。」
「……ドン引きなんだけど」
「もういつものことじゃない」
「…私のことメンヘラって言うなら、お兄はもっとヤバイやつでしょ」

んー?と可愛こぶって首を傾げるお兄は最強にキモイ。でも、その後普通に顔中に唇を落としてくるからすごい。私が私なら、兄も兄だ。普通妹に欲情するもんか?いやしない。医者に就く奴は変人ばっかっていうけど本当にそうだと思う。この人は…兄は、

「そうだね。お前のこと殺したいぐらい愛してるからなぁ」
「…病院行けば?」
「また明日行くよ」
「いや仕事じゃなくて」
「そろそろ小指ぐらい頂戴よ。いいでしょ一本ぐらい」
「あのね…。」

私が震えるぐらいヤバイ奴だ。もし私がメンヘラというのなら、それを作り出したのは絶対的にお兄だ。こんな狂気的な愛情表現に慣れてしまったせいでしかない。まあ、慣れてしまった私も私なのかもしれないが。…普通妹の小指欲しがる?!気持ち悪。この医者マジできっしょ。

「てかお兄小児科でしょ…」
「いいや、今整形外科」
「…は?なんで」
「名前の指が欲しくて?」
「……頭可笑しいんじゃない?」

そう?と微笑んで私の左小指に口付けてくる。…だから指はやんないってば、と呆れてもニコニコ笑うだけ。いつか本当にもぎ取られそうな気さえした。…怖。お兄に比べたら私なんて全然可愛いもんじゃん。どこがメンヘラなんだって。

「お兄の方がよっぽどメンヘラだよ」
「かな?ま、俺以上に名前のこと好きな奴いないと思うよ。」
「……同じこと言ってるし…。」
「ん?どういうこと?」
「別に」

自分から唇を寄せると、嬉しそうに食いついてくるお兄。完全に覆い被さられても、何とも思わない。思わないけれどこの温もりだけは離せない。お兄以上に私を思って慰めてくれるヒトはいない。…超越した愛のカタチ、と纏めるには少し難しい部分もあるかもしれないが。それでも受け入れてしまう私は、残念ながらお兄の妹だと思った。

「…全部お兄のせい」
「良い見本でしょ?」
「どこが。屈折しまくったメンヘラじゃん」
「真っ直ぐ愛されるとかおもしろい?曲がり捻った愛情の方が深みあっていいと思うけどなぁ」
「……確かに」
「でしょ?」

……あーあ。