私は天使なんかじゃない、けど堕天使とはまさにこのことだ。今日もダメになっていく自分を、他人事のように見ていた。


……

「…は?また彼氏と別れたの?」

23時過ぎ。少し煩い居酒屋で、口に運んだ枝豆をポロリと溢すのはスーツにマスクが定番のオトコ。はたけカカシ。前の会社で一緒で、無駄に気が合う奴だった。だからこうやってたまに会っているわけで。しかし奴の言い方が気に食わなくて、煙草の煙を顔面に吹きかけた。

「煙「ねえその言い方私がすごいスパン早い奴みたいだからやめて」
「いやそうでしょ。1ヶ月持った?」
「持ったよ!…多分」
「俺の記憶では3週間とちょっと前に彼氏できたって聞いた気がするけど」
「……」

悔しいが多分それで合ってる。正直なところ、いつ付き合ったとか期間とか覚えてない。それに今となっては興味がない。覚えているのはいつもカカシの方だ。つくづくマメな男だと思う。

「そういうアンタは?彼女いたでしょ」
「んー…またメンヘラ…?なっちゃってさ…。」
「はぁ!?また!?…(メンヘラ)工場長やりすぎでしょ」
「(工場長は)卒業したいんだけど…。勝手にそうなってくんだよね」
「"女の子にはやさしく"、がモットーだっけ?」

マメな部分が災いしているのか、こいつは女をすぐダメにする。砂糖漬けかってぐらい甘やかして、ワガママに進化させて、病んでいく。これぞまさにメンヘラ工場長。私は飽き性が酷くてこの結果だが、カカシの方が結果的に悪いと思う。他人の性格変えてんだから。

「別れたら死ぬって言われてね…」
「もう聞き飽きたんだよそのセリフ」
「中途半端だけは嫌」
「……ねえ分かるの嫌なんだけど。」
「名前がよく歌ってるからさ。でもあの曲良いよね、お前の聞いて俺も好きになった」

私の好きな曲の歌詞をもじってつっこめば、まさかの歌詞もじられ返し。カラオケで歌いすぎたか…。と目の前でにこにこ笑う奴を呆れ睨む。女にとって、共感・理解・包容力はかなり大きいポイントだと思うが、こいつはそれにプラス外見最強。そりゃ工場長ぐらいのマイナスポイントないと割りに合わないな。…それでも割には合ってないが。

こんな私にでさえ、寄り添うように共感してくるところ。私がカカシを男として見ていたら、多分気になるきっかけぐらいにはなるだろう。…ああ、

「アンタ絶対工場長止めるの無理だよ。」
「え?そうかな。大丈夫だと思うんだけど」
「生涯付き合っていくしかないね…」
「ハハハ。それは困った」

***

時刻は1時過ぎ。意外と時間が経っていたようだ。二件目という名の朝までコースに行くのか、それともタクで帰るか。それを考えるよりも、寒くなった夜を歩く方が好きだ。お酒のせいで火照っているせいか。自分の少しふらつく足元がかわいいと思う私は馬鹿だ。

「名前そんな飲んだ?」
「いーや。至って普通」
「ふーん?まあご機嫌でよかった」
「うるせ着いてくんな」
「はいはい。ほら危ないって」

人にぶつかりそうになる手前で、引き寄せられた腰。自然と距離が近くなって、見上げると弓なりに重なった眼が困ったように微笑んでいる。さっきまで腰にいた手が、やさしく頭を撫でていた。

「大人しく隣にいてね。かわいいんだから、連れ去れちゃうでしょ。」
「………怖っ」

一瞬、抱き付きそうになった自分が。怖かった。…その誰でも女の子扱い止めて欲しい。いつもならこんな気持ちになったりしないのに、今日は何故。是非お酒のせいだと思いたい。…じゃなきゃ死にたい。こんな奴に引っ掛かったら、先なんて容易く見えてる!そこまで堕ちたくない。カカシとは、友達でいたい。

そんな気持ちが行動に表れたのか、奴を置いてサッサと歩き出していたようだ。後ろから追い掛けてくる足音に気付いて、速度を緩めた。

「言ってるそばからしてくれるね」
「あー…すみませ」
「ん、までちゃんと言って」
「はぁ?煩い小姑じゃん」
「ハハハ。それは嫌だけど」
「…!」

ただ並んで歩く、それだけを劇的に変えられてしまう。人が息を吸って吐くレベルで、普通に手を繋いできたから。…いや止めて。そういう繋ぎ方が一番離すタイミング無い。それにちょっとときめいてる自分なに。全力で引く。きもい。え、どうしよ。

「寒いね」
「…そう?別に普通」
「名前はただの飲み過ぎかな」
「だから飲んでないって」
「はいはい。そういうことにしとこうか。」
「マジでうざい…」
「かわいいのにそんなこと言わない。」
「もー今日のそれ何ほんとにウザイから」

精一杯の強がりで、今だけは知らないフリをして。堕ちていく私を、誰か浅はかだと笑って。それでも好きだと言ってくれることを、残念ながら知っている。この手が証明してしまった。どうしようもない沼のような青春を煩う、今日、この瞬間より。