自ら蚊帳の中に入ったくせに、劣化と共に薄れていく。自分を忘れて新しいモノに唾を付ける。新鮮味。のめり込んで、吸い取って、味がしなくなったらそっと粗大ゴミ日に置き去る。ふざけんな。感情ごと引っ張っていくのは犯罪だろ。ガムじゃねーんだよ。


「おっ。ガム子・・・。」
「だからそのあだ名やめてくださいってば」

さぁ今からお弁当箱を開こう!とした12時すぎ。休憩所に現れたのは、残念ながらスーツが爆似合いする長身銀髪の上司。40過ぎで営業部長になられた、地味にすごい人(らしい)。でも私からしたら片目眼帯からのマスクってなかなか変人の部類…。なのに女性社員から人気があるらしい。世の中大丈夫か。

「俺も弁当買ってきたんだよね」
「よそで食べてください。」
「ホント冷たいよねぇ。そんなこと言うのお前ぐらいよ」
「とか言いつつ座りますよね…。」
「え?ダメだった?」

笑いながら隣に座ったこの人は、変なあだ名を付けてきたり、こうして構ってきたりする。そのおかげで女性社員の視線がチクリ刺さる…気がする。みなさん左手見えてますか?人のモノって証ついてますよ?溜息だけが膨らんでいく。

「今日も(弁当)作ってきたの?」
「作り置きのおかず詰めてきただけです」
「ちゃんとして偉いね。」
「事務員の給料だとこれが普通ですよ」
「今度ランチ連れてってあげよっか?」
「…そういう意味で言ったわけじゃないです」
「そ?」

微笑んで買ってきたであろうお弁当の蓋を開けている。鮭美味しそう。でも鮭じゃなくてオマケのカリカリ梅干しを美味しそうに頬張っていて、メインをはき違えてる。それは口直しレベルでは。なんて思っていると、コツン、と足を蹴られた感覚。目を伏せると、隣人の足が動くのが見えた。

「……鮭弁当ですよね」
「ん?そうだね。でも梅干しが美味しいんだ」
「もっとメインを味わって食べてあげないと」
「んー…」

いつも微笑んで細くなった目と、視線が合う。たまに開くあの眼は、至って普通の黒い眼なのに、心臓の奥の方で燻る。癖になったらきっと終わりだ。

「でも名前の卵焼きのほうがもっと美味しそう」
「…それで呼ばないでもらえます」

終わったのに、が聞こえていたら燻った音も消えてくれただろうか。

「一口、また食べたいなぁ」
「…」

あんたなんて、ただ、人のもの。