急に思い出して、ずれた音で、鍵盤を叩く。最後に調律したのはいつだったか思い出せない。踏み外した音は、雪崩のようにきえて、私をたべた。

「ふぁー…。」

夜中の0時過ぎ。トイレに行きたくて目が覚める。まだ歩き慣れていない廊下で、障害物にぶつかりながらぼんやりと目的地へ到着。

−−…忘れもしない春、誕生日一週間前の夜中。いつもは寝ている時間なのに目が冴えて、そこから予知していたのか。帰ってこないシカマルから彼女ができたとLINEがきて、おめでとうと返してすぐ家を出て行った。新居この家に越してきてもう1ヵ月になる。

同居し始めて半年すぎ、おじじと二度目の初めましてをしてから酒を飲むたび何度も間違えた。もうヤケクソだったのだと思う。でも気持ちよかったし、特に後悔はしていない。銀髪の上司とも遊んでいたけれど、最近は全くだ。

しかし残念ながら、おじじは私が出て行った3日後にはもう次の相手に鍵を渡しており。クソすぎて逆に清々しい。恋の病に侵されてんだな、とちょっと笑いながら惨めな気持ちと相まる。

「でも楽しかったよなぁー…。」

スッキリしてその場を後にする。飽きもせず床に並べた障害物に躓きながらベッドに戻った。見上げた天井が前より少し低く感じる。年末年始、一緒に鍋して桃鉄して…負けまくって。不機嫌だったから鍋も片付けないで寝て、次の日起きたら鍋撤去されてて、ちょっとクスッとしたっけ。

生理痛がひどくて嫌々蕎麦作ってたら、焼肉誘われてすぐ腹痛治ったり、プロジェクターで一緒にNetflix見てたら丸一日見ちゃって、それでも見止めず夜ラーメン作って食べながら見たり、ゲームクリアしないと寝れない謎の遊びとか、……

「…」

真っ暗な無音の空間を、見上げながらおもった。あの二人暮らしは、居心地が、よかった。寂しい時にだけ喋って、お酒飲んで、奢ってくれて、エッチして、遊んで…。互いに都合のいい存在だった。でも急に誰かのものになって、いなくなった。

でもこの空間に一人になって、寂しいと思ったことはない。でもそれは多分、私がまだ独りになったと実感していないだけだ。そろそろ一人暮らしに慣れて、ほっとした瞬間に襲ってくるのだろう。

強がりと言われればそれまでだが、シカマルをまた好くことはなかった。後から襲ってくる寂しさと、好意は、イコールじゃない。たとえそう思いたいだけだとしても、もうそれでいい。私にとってあの一年間は、ある意味夢のような、非日常だったのだから。

「んー…、お腹すいたな…。」

渋々キッチンに足を向けて、冷蔵庫を覗く。ヨーグルトって気分でもないな…。あ、そういえばラーメンがあったっけ…と流しの下にある収納を開けた。それを取って戸を閉めると、ふいに、使い終わったコップがひとつ置かれているのに気付く。

「……」

なんとなく、今じゃないような気分になって、元の場所に戻す。ベッドに戻ると、無音の部屋で控えめに呟いた。

「おやすみ。」