「うるっさいなぁ…!」
「す、すみません……。」

煙草を好む喫茶店での話。私はあなたと一緒だったので、知らないうちに浮かれていたのだと思う。笑い声が隣の客の癇に障ったようだ。謝罪の言葉がおどおどしすぎていた私に、隣で煙草を噴かす銀髪の彼は言う。

「こっわ…」

その言葉に、気まずい雰囲気を何とかしたくて怒られちゃいました、と小声で呟く。彼も少し笑いながらそれに頷く。でももうそこにいる雰囲気じゃなくて、二人で席を立った。

これはあのアト・・・・。小腹が空いたので寄った喫茶店だった。煙草を好む彼の行きつけの場所。私はその後必ずお腹が空くので、買ってもらっていたスイーツをその場で食べていたから正直そんなだった。けれど誘われたのが嬉しくて着いてきた。言葉もなく繁華街を歩く。

「あの店注文方法難しそう」
「あーほんとだ。でもあんなとこ行かないでしょ?」
「確かに」

気を遣って発せられた言葉だとすぐ分かる。だっていつも私ばかり喋っているもの。でもあなたにとってそれは私を思って、というより空気が重たくなるのを回避したかっただけだ。

それに、怒られて何の気なしに呟いた彼の一言が、私に味方してくれていたように思うのは、無駄だと分かっている期待が勝手しただけ。

「私うるさかったですよね〜…」
「まぁね。控えめに言って煩いかな」
「だって面白かったから!」
「そんな面白い話してたっけ」
「いやもう覚えてないですけど。」
「まぁ、そもそも声おっきいからね」
「、言ってくださいよ!」

うるさかったのは私が悪いんだよね?と確認したがる私は、私と彼を知り過ぎている。自分から傷付きにいくのが大好きだ。彼にとってはそれが出来たら相手なんて誰でもいいのだ。都合がいいオンナである。だから、あの一言は私の為なんかじゃない。漏れた言葉に過ぎない。

なのにどうして、まだ私を気に掛けてくれていると、思ってしまうんだろう。

「じゃあここで」
「はい!ありがとうございました」

手を振ってもう振り向かない。昔はあれだけ惜しんだのに。去り際だってそんなもん。私は二番目にもなれない、お掃除係みたいなものだもの。これだけ分かっているのに、心から出て行かないあなたが酷い。いや、本当は私が分かっていないだけだ。期待を殺しても殺しても、あなたを見るとすぐ生き返ってくる。どうしたって無くならない。

……好きなんかじゃない。本当なのに。

「はたけさん、の、バーカ…。」

一度も呼ばれなかった名前が、酷く切なく笑った。