けれどさすがに、限界を感じていた。

「…ねー、」
「ん?」
「もうさ、返事なんて要らないから。友達のまんまでいい」

5月の中頃だろうか。半同棲、とキバに言われてもう1ヵ月は経った。もちろん今だって楽しいのだが、関係性がうやむやなので苛々してきた結果。もう付き合うとかしなくたって良いって思えた。ので、もう寝ようかという今。腕枕されつつ伝えたソレ。…もはやこの時点で可笑しいよなぁ、と半笑いだ。

「…いや、あのさ」
「もう(待つの)疲れちゃって。別に良いよ友達で」
「いや……、」
「だから明日からちゃんと家帰ってねー」

アハハ。と笑いながら背を向けて目を瞑った。…するとそんな背中を抱き締めてくる奴。あー…鬱陶しいな。けど慣れ親しんだ温もりは、無駄に心地よくて余計に腹が立った。ただただ都合の良い女扱い感がすごいが。

「…もうちょっと、待ってほしい」
「なんで?」
「……あと2週間でいい。頼む」
「…」

その期間に、一体何があんの。と喉まで出た言葉はその温もりに死んだ。…他の女が居るんだろうな。都合の良い女の歌、逆バージョンだけど今なら大熱唱できる。説得力ありすぎて周りには引かれそうだけど。結局、私はそんなしょうもない女なのだ。

***

「なぁ」

そんな10日後。5月も終わりに差し掛かった時だ。私がバイトの時はあんまりうちに来なかったのに、今日は謎に自ら来た。まぁ別に良いから招き入れて、お風呂上がりの私に声を掛けてきた。はいはいなんでしょう?とソファに座る奴の隣に腰かけた。

「まァ…そのなんだ、ゲームしねぇ?」
「?いいけど」
「賭けよーぜ」
「えぇ?!私負けるに決まってんじゃんハンデくれ!」

いつもやってるゾンビ撃ち殺すやつなんて、私ほぼザコ撃って満足してたぐらいなのに。賭けたりなんてしたら秒速で負けんじゃねえか!と思って猛反発したらククク、と笑われる始末。てめコノヤロウ…。てかそんなこと言われたことなかったので、ナンデ?って顔の私の頭を、ポンポンされる手が大きくて胸キュンする私死ね。

「だからよ」
「なに」
「俺が勝ったら、俺と付き合ってくれ」
「え!?付き…」

あ?の後が、追い付かない理解力のせいで分からない。何言ってんだこいつ。………ツキアウ?突き…合う…?いや違う下ネタやめ。付き合うってその…え!?あの付き合うですか!?!?

「(あ然)…」
「返事は?」
「…え、付き合うって、あの付き合うですか」
「……それ以外何があんだよ」
「いや下ネタの突き「コラ」
「ごめんふざけた」

よ、よろしくお願いします。と三つ指に正座で頭を下げたら、奈良さんも同じようにするので面白くって大爆笑をかました。なんかよく分からないけどとても嬉しくて、嬉しくて、待たされたこの2ヵ月弱は一体何だったのかと聞くタイミングを逃してしまった。けれど嬉しいからまぁいっか!−−−…

≪…−−−いやまあいっかじゃねぇよアホか!≫
「あっすみませんごめんなさい」

次の日。嬉しくて仕事(本業)中のお昼休憩時、キバに電話したら第一声がこれだ。いやそうですよね分かってます。そこめっちゃ大事なの分かってるんですけど…

≪いや分かってねぇ。分かってたらすぐ聞くだろ普通≫
「グッ…!ぐうの音も出ねぇ!」
≪ふざけてんのか、あ?≫
「いえすみませんしてないです」
≪ったく…テメェのことだからな?分かってんのかよ≫
「ハイ……。」

イエーイ付き合えたヤッホーイ!って適当に喜んでる場合じゃない。のだけれど、このマテ。期間がまぁまぁ長かったので余計嬉しくてつい。しかも付き合ったので、昨日の夜初めてそういうことをしたのだが、これがまた…。上手いわけではない、けどただただ相性の良さ!!!ってなってもうハッピーで…。さすがにキバにこれは言えないけど。

≪…まぁ、言いにくいのは分かるけどよ≫
「……ハイ。タイミング見て聞きます。」
≪ん。報告待ってる。…まぁ、おめでとう。≫
「ああぁぁキバぁぁぁあありがとう」
≪じゃあこれから毎日LINEとか電話とか少なくなんのかー。それはそれで寂しいな≫
「っ可愛いなぁ君は本当に!!これからも変わんねぇってばよ!!」
≪…変な語尾止めろ≫

照れてる君も可愛いよ★って言ったら電話ブチって切られて笑った。いいよいいよ今日もバイトで会うもんね!!よしよししまくったらぁ!とルンルンで仕事に戻った。バイト先に行ったら、奈良さんいるかな。残業大好き人間だしいるよねウフフフ。レジから青果の作業場ガン見しよっと。
そしてバイトに出勤すると、タイミングよくバックヤードに奈良さま発見。はいテンション!みんなに大声で記者会見したい。あの人私の彼氏ですよ〜〜って!エヘヘヘヘ。

「なーらさん。おはようございます。」
「お…。今から?」
「(知ってるくーせーにーぃ)そうです。奈良さんは相変わらず残業ですね?」
「相変わらずって言うな、相変わらずって」

アハハ!と言いながら事務所に歩く私。ヘヘヘにやける。バイト先では関係を内緒にしようと決めているので、呼び方も会話も店での対応のまま。だけど本当は昨日、奈良さんに苗字呼び止めてほしいと言われたので下の名前で呼んでたりする。ちょっと照れるから呼びにくいけど。そして向こうは私を"名前"と呼ぶ。…はーーーー、頬緩むわーーーー

「おはようございま〜〜す」
「…やけにテンション高いな。」
「うちはさん!エヘヘヘヘ」
「気持ち悪い」
「エヘヘヘヘ褒め言葉」

浮かれポンチな私は、たぶん今が一番幸せの絶頂期だったのだと思う。こういうのは長く続かない、と誰が言ったのだろう上手いこと言うよ。誰かこの時の私に、それをガツンと言ってほしかったよ。