私は、目の前の誘惑に弱い。 18歳の男の子に好かれた時も、8個も下だし未成年だしあり得ないと思っていた。でも気付けば絆されて、私の方が本気になって重たくなって振られた。その後慰めてくれた5個下の男の子も、全然興味はなかったけど心の隙間を埋めるのに丁度良かった。けれど童貞過ぎて面倒臭くなって振った。 「おはようございまーす」 「おはよう」 今日も本業を終えて、18時前。副業である普通のスーパーに出勤。うちはさんは今日もイケメンだ。私の2個上で店長なんてそれも格好良い要因でしかない。よくこんなとこで働いてんなといつも思う。でも目の保養なわけで、この人がいるといつも幸せになれる。このださい制服だって喜んで着れる。 「うちはさん…今日もイケメンですね」 「…つべこべ言ってないで働け」 「それでさえ嬉しく感じる私ってドMですかね…?」 「そうだな」 冷ややかな視線、ご馳走さまです!と言いながらタイムカードを押す。レジの振り分け表を確認すると、今日は品出し中心のレジ番号に私の名前があった。バイト内ではそれを"外"と呼んでいる。外に割り振られた人間は、お菓子の品出し・後片付けメイン。"中"に割り振られた人間は固定でレジ打ち。 このスーパーは21時閉店なので、18時出勤の私はほぼ閉め作業要員だ。外の割合が多い私は、ネクタイを締めて売り場に出る。そこで私のもう一つの確認作業がある。 「(今日は…居ない?)」 レジを打ちながら、それとなく青果の作業場を確認。…長身イケメンの姿はない。今日は出勤のはずだが、もう帰ったのだろうか。あれを見れると見れないとでは今日のテンションが変わるというのに!チクショウ。 軽いため息をつきながら、レジが空いてきたので閉めて品出しに移る(仕事モードON)。今日の売り場は…結構スカスカだ。バックから何を持ってくるか脳内で考えて、裏に戻る。あのお菓子も出るか…と段ボールを見つめていると、ふと感じる気配。 「あ、おはようございます」 「おはよ。今から?」 「そうです。もう終わりですか?」 「まーね。だって5時から働いてるからさ」 「……早く帰りましょう。ええはい」 だねぇ。と微笑んでくれるのは、私が探していたイケメンはたけカカシさん。3個上なのに、この人も青果の店長。うちのスーパーは青果・精肉・鮮魚は別会社が入っていて(いわゆるテナントさんにあたる)、それ以外が私が働いている会社になる。だから同じ場所で働いているが全くの別会社。 しかもはたけさんはその会社の社長の息子。そしてイケメンで若くて金持ち。…モテない要素が分からない人だ。私がこのスーパーで働き始めてすぐ、彼が格好良い!という話をしていたが、彼女がいるらしくすぐ諦めたっけ。 お疲れさまです。と言うのを惜しみつつ告げた。でも久々に話せた喜びはすごい。今日は頑張れそうだ。 「やっぱりはたけさんイケメンすぎでは…。」 「アンタ本当に好きねー」 「ねえなんで分かってくれないの!!」 同じ制服を着る同僚のサクラ。フリーターでここで働いていて、結構被る上に同い年なので仲は良い方だ。はたけさんに関しては一切の興味がない。うちの店長のことになると煩いのに…。積んだ段ボールを持って二人で売り場に出て、ヤーヤー言いながら品出しをしていた。 「あれ、奈良さん?こんな時間までどうしたんですか」 「あぁ…。やっとさっき終わってな…」 20時。そろそろ閉め作業を始める時間帯に、パン売り場で遭遇した青果の社員。げっそりしているのはいつものことだ。青果さん単体の売り上げがすごいので、きっと忙しいのだろうと思いながらイングリッシュマフィン(12個入り)を勧めた。腹は減っているがさすがにその量はないだろうと突っ込まれて、クククと笑いがこみ上げた。 「てか奈良さんって何時出勤なんですか」 「あー…。6時。」 「えっぐ。14時間労働ぐっろ。」 「まあもう慣れてるけどな…」 「いや顔が慣れてないよ」 奈良さんは2個上だったと思う。顔は格好良い部類に入るだろうのに、疲れすぎているのか可哀想な感じ。青果さんマジブラックだな…。と思いながら帰りを見送った。明日も6時からがんばれよ。 なんて思いながら、私もそろそろ辞めたいなぁと漠然と思った。だってそうだ、冒頭のあの話はすべて 「あー良いバイト先ないかなー。」 「え。辞めんの。辞めないでしょ」 閉め作業中のサクラにすぐ突っ込まれて笑う。でも二人とも手は止めない(中でレジ固定の子に悪い)し、あくまでしもっての会話である。 「んーーー。多分なー」 「ここだってかなり自由だし良いじゃない」 「ネイルも髪もピアスも自由だけどよ…」 「いや本当はダメだけどね全部」 「なんかそろそろ…とか思うわけですよ」 「まあ色々手出したわけだしね犯罪」 「犯罪言うな犯罪。…まあかなりグレーゾーンですけど」 「そりゃ18歳は「頼む言わないでくれ」 アハハ、と笑うサクラに、その奥で微笑んでいるレジの学生ちゃんたち。…なんだかんだこの雰囲気が好きで辞めたくないと本当は思っている。だからこそ今度は、ここでゴチャゴチャしてはいけない。絶対に。 ← |