うちの飲み会はカオスではない。長いだけ。 「おいおいおい奈良の奴天国かよ〜」 「誰かこの塊持って行ってください。」 「アハハ酷い言われ様だな」 もう飲み過ぎて寝落ちてしまった奈良さんは、謎に私の太腿を枕としている。なぜ膝枕しなければならないのか…。そろそろ他の人と話したいが、ちょっと可愛く見えてしまうからタチが悪い。なんかその辺の犬を手懐けた気分。 しかし、さあ帰ろうとなっても起きぬお兄さん。他の社員にぶっ飛ばされて無理くり起きていた。可哀想に、と思うことすら視点がズレてるな私。 「奈良さん!歩けますか…?」 「あぁ……大丈夫」 「私でよかったら、寄り掛かってください」 「ありがとな」 帰り道。少し後ろを歩いてた奈良さんと、隣の子は…モエギちゃんだ。うちのアルバイトで、大学生だったと思う。女の子らしいっていうか、リスみたいっていうか。男の子が好きそうなタイプだと思う。かなり歳が離れているだろうけど(10個ぐらい)、付き合えばいいのに。そしたら面白いのになぁ、なんて他人事のように思っていた。 「はー…、疲れたー…。」 家に帰ると押し寄せる疲労感。明日も仕事なんてツライ。とりあえず…と携帯を見ると誰かから2時間前にLINEが来ていた。…奈良さんだ。交換したときの、アレか。と思いながら既読を付けた。ちゃんと帰っているだろうか…、と謎の母性から言葉が溢れた。 【お疲れさまです。ちゃんと帰れてますか?】 結構酔っ払ってたからな…。と思いながら送信後2分でピコン!と音が鳴る。深夜1時過ぎに似合わないソレを見ると、名字どこ行った?と。いや家ですけど、と思いながらも面倒臭そうだったのでスルーしてお風呂に入った。 *** それから謎に続いているLINE。はたけさんの時と違って、1日にまあまあ返ってくる。バイト中は返せないが、本業の事務員のときは時間があるので結構暇つぶしになった。そして、そろそろ飲みにでも行きましょうよ、なんて話を投げていた。なんでか分からない。気分だと思う。 「俺ら二人で飲むなんて、なんか変な気分だな」 「…確かに。今までそんなに仲良くなかったし」 「おい。言い方な、」 アハハ。と笑いながらお酒を煽る。あの飲み会から2週間後ぐらいだろうか、スーパー近くの居酒屋でこうやって枝豆を食べている。LINEしていて分かったのだが、私と奈良さんの家が近いこと。歳は2つ上で近くて、意外と面倒見がいいところ。今日の最大の議題も、私の相談、であるし。 「…で?」 「…で。」 「相談ってなんだよ」 「いやー…全力で失恋しまして」 「表現が独特だな」 まぁ、と照れ笑いすると褒めてねぇよと笑われた。とりあえず3分の1ほど残っていた生ビールを飲み干して、おかわりください、と店員さんに言ってから。はたけさん、とは言わずに一連の流れを説明した。…だって奈良さん奴の直属の部下だし(絶対言えねぇ)。それを聞き終わると、なんとも微妙な表情をしていた。 「まあ…、やっちまったもんは仕方ねぇけど…。タイプじゃねえは酷いな」 「ですよね!?…まぁ、こっぴどく振ってくれとは言いましたけど、」 「にしても…。」 「やっといてそれかよ!っていう。……奈良さん酒が足んないっす!!」 「おぉ飲め飲め。ちゃんと帰れる程度でな」 新しく運ばれてきた生を半分ほど一気して幸せな気持ちになった。あー…話す相手たぶん奈良さんじゃないんだけれど。男で出来た傷は男でなんとかってやつだ。だし巻きを口に運んで、美味しいなぁ、と思っていると予期せぬ爆弾が飛んできた。 「………それ、よォ」 「はい?」 「もしかして相手…俺の知ってる人か?…」 「………えっ?」 「いやっ、何となくそう思っただけだ」 「……誰だと思ったんですか?」 「…〜、…はたけさん、とか」 「!」 め、めっちゃ焦ってる。…いやなんで知ってるんだ。どうして?え??どこから漏れ…?と考えても奈良さんにそれが辿り着けない。誰から?と考えている顔が、イエスと答えているように見えたのだろう。苦笑した彼が横目に入って、言い逃れができないことを知った。 「……誰から?」 「…まー…、うーん…「誰ですか」 「いやまぁそれは「答えなさい」 「…………春、野?」 「…はっ?」 意外すぎるその名に、頭が真っ白になる。…今、春野って言ったよね。サクラ?……え?いや待ってなんで?追い付かなくて思考がオロオロしてる。知らぬ間に瞬きが多くなって、……疑問がさらりと口から出た。 「……なんでサクラ?」 「…なんつーか…、…はたけさんにお前がLINE聞いてる場面にあいつ居たんだろ?それで、良い感じかもって聞いて……」 「…どうして奈良さんにそれ言うの?」 「………まァ、仲良いから……」 そう言って泳ぐ目を見逃さなかった。ピンときたそれは、なかなか有り得ないと思う。けれど、有り得てしまったから彼に私の情報が漏れていたのだ。…そういえば、サクラは肝心なことは何一つ教えてくれてなかった気がした。裏切られた、ような、そんな気持ちって多分これだ。 「仲良いだけじゃないんでしょ」 「……いや…、」 「誰にも言わないから。」 「………絶対誰にも言うなよ。店とか特に」 「……で?」 「…付き合ってた。去年の末に別れた、けど」 ← |