「付き合ってた。去年の末に別れたけど…」

いやえげつな、奈良砲……。が、率直なる感想。だってサクラ、そんなの私に一言も…と思うほどに悲しい胸の内。てかうちはさんじゃなかったんかい。なんだかんだ彼女居るし諦めてんのかな。……てかいつの間にそんな仲に、と出てくる疑問達の多さよ。

「いやいつの間にそんなことに」
「…マジで言うなよ?誰にも…特に店の連中には絶対言わねぇってのが約束だった。お前が聞いてないってことは、よっぽどだと思うしよ」
「……言わない。で?」

その約束になるほど、と思った。だって旗から見たらサクラはうちはさんだったし、そこでまさかの青果の奈良さんと…なんてなるとややこしいし、うちはさんは嘘だったんかいってなるし。でも、私にぐらい言ってくれても…。という思考は次の言葉で消された。

「俺が無理くり押して、付き合ったみたいなもんだ」
「え?」
「まあ、店での飲み会結構あって…そこに大体春野が居て、よく喋るようになって…気付いたら、そうで」
「…ほう」
「でもあいつはうちはさんだろ?知ってた。だからそれとなくってみても、やんわり断られるばっかで」
「へぇー…」
「多分、一年は片思いしてた。押して押して押しまくって、それに根負けしてくれたもんだと思う」

……奈良さんって意外とガンガン攻めるタイプなんだな。と驚く一方、そんなに飲み会があったことにもビックリした。私に声掛からなさすぎじゃね…?と寂しくなるのはまあ仕方ない。私のスタンスが悪い。でもサクラは…私にはうちはさんって言ってたから、言いにくかったんだろう。でも親友だと思っていたのは私だけだったのか。

「いつから付き合ってたんですか?」
「去年の夏から…12月の末ぐらいまでか。男として見られないって言われて(終わった)。」
「おー…。」
「でも諦めきれねぇで、今年の2月頃もっかい言ってみたけど…駄目だった。で、今は友達ってところだな」
「友達…」

なかなか酷い台詞で振ったな、と思ったが、友達として継続していられるところにもすごいと感じた。それなりに仲が良いままなんだろう、じゃないと私の話などわざわざ言ったりしない。まぁそれでも言うなよって感じだけれど。気付いたら空になっていたビールを知ってか、新しいものが来ていてやっぱり気遣いが出来る人だと思った。

「……しっかしサクラと奈良さんねぇ……。」
「似合わねぇだろ」
「まぁ…。てか、奈良さんはモエギちゃんみたいなのがタイプだと思ってた」
「モエギ?」
「うちのバイトの子です。大学生だったかな、ちっちゃくてリスみたいな」
「あー…風祭のことか」
「そう!知ってました?」
「ああ、飲み会に結構居る。」

いやモエギちゃんもかい!と思う反面、どことどこが仲良いなんて分からないもんだと思った。職場見てるだけじゃ分かんないもんだな。と関心しながら飲み干した酒からだ。…ちょっと頭がぐらぐらしてる。

「………おい。ちゃんと帰れんのか?」
「えー…?いや帰れるからー」

帰り道、揺れる道路を歩く私にちいさな溜息が振ってくる。今回もまあまあ飲んだようだ。会計どうなったっけ…と思いながらも、3月の夜風が涼しくて吹っ飛ぶ思考。しあわせだなぁ。と、今まで左側にいた奈良さんが消えた。

「…?」
「ちゃんと前見て歩けよ」
「歩いてるやい」

謎に右側に移動していて、その後ろから車が走ってきた。酔った脳内でもそういうものを察知してしまう私は、ある意味すごいかもしれない。えへへ〜と漏れた声に、ったく、という声が被さってくる。でも家まで送ってくれるとこさすがだよ兄さん。

「ねー」
「何だよ」
「まだサクラのこと好き?」
「…急にぶっ込んでくんなァお前は」
「で?どーなの」
「いや、もうこの前ので吹っ切れてる。…そういうお前はどーなんだよ」
「私は〜…どうだろうねぇ…。」

髪を切ったとて嫌いになれない。し、あの酷い台詞を思い出しても、それを上書きするほどの良いところが覆い被さってきて正直全然好きだ。…ワンチャンで終わるような女とでしか見られなくとも。声に出してしまうと完全に認めてしまう気がして、煮え切らない返答が精一杯だった。

「聞いといてそれかよ。」
「アハハ。だってよく分かってないよ」
「まぁ…なるようになるだろ」
「多分ね。店辞められたら手っ取り早いんだけどなー」
「辞めねぇんだろ?」
「今んとこね。辞めたって暇だし」

そっちかよ。と笑ってくれる奈良さんとの空気がなんとなく好きだと思えた、3月の終わりのこと。