その後も、私に言わずにサクラとバイトの男の子と3人でご飯に行ってたり(しかもその後3人でバイト先まで来てお酒買ってってまさかの奈良んちで朝まで宅飲み)、エッチのときの前戯が無くなっていったりして、だんだんと冷めていく何かをひしひしと感じていた。

「転勤?」
「ああ。来週末から他店舗行くことになった。」
「そっかぁ」

そんな時に聞いた、ソレ。前々からそんな話があったが、やっと正式に決まったらしい。ソファでごろごろしている彼からの報告に、ある程度の寂しさは感じた。けれど…

「あんまり会えなくなっちゃうね」
「だな…。多分休みも名前と合わねぇと思うし」
「さみしいね」

言葉とは裏腹に、少し安心している部分もあった。好きなのは間違いないのに、なぜかは分からない。やはり少しずつ冷めてきていることに、嘘はつけなかった。もし今押し倒されて始まっても、あの時みたいなテンションにはなれない。……やはりあの時別れておくべきだったのか。

なんて思っていたのが、シカマルくんに伝わってしまったのかもしれない。

***

≪……連絡がない?≫
「そう。いっこも。全然!」

彼が転勤して2週間経った頃。本当に忙しいと始めの頃はLINEが来ていた。けれど今、全く音沙汰なし。マジでこの10日間何もない。…え?もう他人だったっけ?と思うぐらい。腹が立ちすぎて、はたけさんに電話。マクドを食べている最中だったらしいが、もう沸々とした苛立ちが収まらなくて無視して愚痴を投げた。

≪お前さ…前も聞いたかもだけど≫
「そいつのどこが好きなんだって?」
≪ハハハ。覚えてたね≫
「だって私だってそう思ってる」
≪何に執着してんの?もう次がないとか思ってる?≫

……的確な言葉は、刃のように心臓に切り込んでくる。そうか、私はそう思っているんだ。はじめて自分から好きになった人と付き合えて、結婚したらきっと幸せだと思える人で、こんな人ともう会えることも…ましてや付き合えることなんてないと。自分に線引きをしていただけだった。

「……思ってる。だって、私なんかと付き合ってくれる人なかなか居ないよ」
≪連絡くれなくても?こんなに放置されてても?≫
「…忙しいんだよ」
≪俺さ、この2ヵ月ぐらい丸々休みなんてないよ。でもお前の電話に付き合うぐらいの時間は作れる≫

えっ?と自然と漏れた声。はたけさんの休みは以前把握していたものと変わっていないので、水日が休みだった。だからその前日、毎週のようにこんな電話をしていた。…しかも2時間ぐらい。だからそれは寝耳に水すぎて。今はもう23時で、もし、明日もいつも通りの時間に起きて出勤だとしたら……

「えっ!?…ウソごめん知らなくて、え、明日も3時半起き!?」
≪そ。いつも通りね。まぁ2〜3時間仕事したら帰るからいいんだけど≫
「えっごめん!言ってよ〜いつもごめん長電話付き合わせて、」
≪まぁ、それは良いんだけど。だからお前の彼氏は休み一日も無いのかってこと。俺以上にないのって話≫
「…確かに」
≪結局、時間を作ろうとしてないだけじゃない?そんな奴と結婚したいの、お前≫
「……」

ごもっとも過ぎて。ぐうの音も出ないとはこのことである。悔しいがまたはたけポイントが上がってしまった。それが上がる度に、下がるシカマルくんの株。誰がどう見ても、私が見たって良い人とは言いにくい。それでも別れを切り出せないのは?……一人が、寂しいからだ。きっと。

「…はたけさん、ごめん。今まで言ってなかったことがある」
≪え、何?≫
「えーと……私のさ、彼氏……」
≪待って。え?何、まさか…≫
「奈良さんなんだよね………。」

もう別れが近いことを確信したので、もう言っちゃえ★精神ではたけさんにぶつけてみた。え?は?マジで?のオンパレードだったけど、よく考えてみたら…と思い当たる節がいくつかあったらしい。それがパズルのようにハマっていって、気持ち悪がっていた。面白い反応すぎて、言った私もスッキリ感満載だ。

≪お前ね……。相手が奈良あいつだって知った上で言うよ。あいつは止めとけ。≫
「アハハハ!だよね。絶対そう言われるって思ってた」
≪俺はあいつのプライベートは知らないけど…やめといた方がいい≫
「直属の上司から言われる言葉は、重く響くねぇ…」
≪そりゃぁ…。なら俺、ずっとあいつの話聞かされてたってことね≫
「ごめんね言うタイミング無くてさ」
≪なんか…アレだな。萎えるな!俺もうこの話聞きたくないなぁ≫
「えっそんなに?」
≪誰が部下の恋愛興味あんのよ。しかも奈良の≫
「ですね……。分かりました…私これからはたけさんに相談せずにがんばります」

≪……まぁ、決めるのは名前だからアレだけど。向こうから連絡来ても、喜んですぐ会うなよ。なんで連絡してこなかったのかちゃんと聞いて、話し合いしなよ。ちゃんと落ち着いて考えて≫

シカマルくんの話は聞きたくないと本気で言ってくるものだから、そんなにかと驚きながらも。それでもちゃんとアドバイスしてくれるお兄さんは一体…。やっぱりイイヤツだなぁと思いながら、明日仕事の件を謝って電話を切った。

「はぁ……」

答えはほぼ決まってるのに、煮え切らない思考に苛々する。一人が恐いなんて、前だってずっと一人だったくせに。二人に慣れた途端、こんなにも前に戻るのが恐いのか。もう、一人で息をしていたあの頃が思い出せない。二人の期間なんて、たった数ヶ月なものなのに。記憶って都合良すぎな。