お前なら傷つけていい


ザックリ二人の関係が分かるかも知れない南雲と菖蒲のSS集。リハビリの為に書いたもの。



お前なら傷つけていい

汚点のある肌
鈍く痛み続ける肌も、数十分もすれば元通りになっているのだろう。南雲くんの殴った痕が、すぐに消えてなかったことになる。それが悲しいのだか、嬉しいのだか、分からない。もしも、私の肌が普通の柔肌であったら。傷が赤黒く腫れあがり、熱を持ち、3日はじくじくと痛み続けるような身体であったら私達はどう変わっていたのだろう。
「南雲くん、痛いよ」
「だろうな」
その肯定は、私の痛みを受け入れてくれていた。治るから痛みもないだなんて悲しい勘違いはしない、私の痛みの存在を知っていてくれる言葉だった。それだけは喜びだと、確信できていた。


また今度のための記念日
「南雲くん、南雲くん、」
「んだよ、ウゼーな」
「あのねぇ、お花好き?」
「どっちでもない」
「じゃあ、春になったら桜見に行こう」
「はぁ?」
「公園の桜」
「そうじゃねーよ。なんでお前と見に行かなきゃなんねーわけ」
「ダメ?」
「めんどくせぇ」
「そっかぁ」
「お前どうせ花より団子だろ」
「お団子!春になったらお団子食べようか!」
「はぁ?……いや、もういい。めんどくせぇ」
「やったー!約束ね!」


延命は蹂躙に似ていたけれど
痛いと少女が泣く。押さえつけた腕は細くて弱々しい。強い抵抗はしないものの生理的な涙と痛みを逃がそうと悶え動く脚が艶めかしい。まだ、俺から離れて行かない。まだ、俺から離れて行かれない。こんなにも酷い事をされているのに。その愚かさに酷く安心する自分もいるのだ。


撫でる手は震えるけれど
菖蒲は一瞬だけ、戸惑うように手を震わせた。少年がこんな弱さを見せるのはとても珍しいことであった。菖蒲が探り探りようやく探し当てる弱さとは違う、明け透けなそれ。彼に何があったのか、菖蒲には分からない。けれど、何かせずにはいられなかった。手をそぅっと伸ばす。壊れ物にでも触れるように、慎重に指先で触れた。そっと、背を撫でる。拒まれることを覚悟していた掌が叩き落されることはなかった。
「南雲くん」
静かに名前を呼んだ。呼びかけると言うよりかは、染み込ませるような静かな声だった。
「南雲くん」
ただ、ここに自分がいることを伝えるように菖蒲は名前を呼び続けた。


楽園幻想がわだかまる場所
当然のように「幸せだよ」と言って見せる少女に苛立ちが募る。お前が、幸せなわけあるもんか。その不幸せと呼べる原因を作り出しているのは自分だというのに、笑う彼女のことが妙に苛立った。自分をちっぽけな取るに足らない存在だと言われているようだった。思わず彼女をぶつ。そこには少ないがちらほらと人もいて、その少ない視線を全て集めるには十分すぎるほどの音だった。思わず、しまった、と思った。感情のままに行動するなど馬鹿のやることである。彼女は驚いたようだった。目をいっぱいに見開いて、涙を目に溜め始める。
「うぜーんだけど」
後にも引けず放った理不尽な言葉に少女はしばし放心して、それでも、彼女は最後には笑って見せるのだった。「ごめんね、南雲くん」、と。


きりきりと、そんな幸せ
幸せだと言い切れた。それは本心だった。私は幸せであった。それが彼は気に食わなかったらしい。ぶったのは彼なのに、彼の方が驚いた顔をしていた。そして、後悔するような顔も。そんな顔をされたら、痛みなんてふっとんで。
ただ私は南雲くんに平穏でいてほしいだけなのに、いつも私は失敗する。今回は何がいけなかったのだろうか。彼自身にすら想定外の暴力は、痛いほどの注目を集めている。また、南雲くんが悪者になってしまう。
「ごめんね、南雲くん」
私の口から出て来たのはテンプレートのようなチープな言葉で、自分のバカさ加減が嫌になってしまうのだ。


ずるいけどきれい、だからずるい
南雲くんのノートや教科書はビリビリに破られていて、おまけに机に落書きまでされていて、馬鹿みたいな嫌がらせにムカムカとお腹の底に怒りが溜まる。1人で怒る私を余所に、南雲くんは片付けを始めていたのだけれど。
「酷い」
絞り出せたのはそれだけで、怒りを上手く消化しきれなかった末のそれを南雲くんは鼻で笑った。
「いちいちウルセーな。嫌われるのなんて慣れてんだよ、こっちは」
「私は南雲くんのこと大好きだよ!?」
思わず大声で返した台詞に南雲くんは驚いたような顔をした。次いで、心底呆れたような哀れむような顔になる。
「バカだなお前。暇なら手伝えよ」
そう言われて、慌てて私も片付けに加わる。破られたノートや教科書を一纏めにしていると何だか切なくてこんな卑怯な真似をする人が嫌で、そして何より南雲くんにこんなことをされたのが許せない。自分勝手な理由で私は怒っている。たぶん、ぜんぜん知らない他人がされたことならばこんなにも怒れない。南雲くんだからだ。
「ばっかだな、お前」
改めて南雲くんがいう。その横顔はどこか優しい。あんまりにも南雲くんの横顔が綺麗で、私は一瞬で怒りを忘れてしまう。私の心をこんなにも乱すのは、いつだって南雲くんなのだ。


爪痕に救われることもある
痛いなぁ、と思う。それに少し安心する。すぐに治ってしまう傷たちは、まるで私の痛みさえなくなってしまったようで恐ろしい。ぷくりと盛り上がった傷痕は昨日つけられた傷だ。まだ完全に治り痕が消えるまでは時間がかかるらしい。それに酷く安心してしまう。よかった、と思う。まだ、私は南雲くんと繋がっている。私の心の痛みは、昨日感じた痛みは、ここにある。そう思う事は、いけないことだと私はちゃんと知っていた。


消せない明かり
きっと、明日も、そのまた次も変わらぬ今日がやってくる。明日も私は幸福だ。幸福でなければいけないのだ。私は現状に満足していて、多くを望み過ぎては身を滅ぼす。私は今の幸福を手放したくなくて、だから、これ以上を望んではいけない。いけないのだ。
「おやすみなさい」
空虚に呟く。私は明日も幸福である。


手は確かに届いていたね、だってとても痛かった
何度傷ついても、何度拒絶されても、本当にいらなくなるときまで私は傍にいるよ。だって、あなたは私の痛みを認めてくれた人。あなたは私を救った人。そのお返しには程遠いかも知れないけれど、あなたの痛みが少しでも和らぎますように。あなたに体温を分け続けようと、私は思うのです。


いいよ、許すよ、あなたの全て

Title by afaik

18/02/22

back