雪溶けて春になる
綴くんは、前を見て喋る。私も、前を見て喋る。お互いの瞳を覗き込むことはめったにない。だから、ぽつりと落とされた言葉が私に向けられた言葉なのか分からないことがある。
「今日は寂しい味だね」
「え?」
聞き返して隣を見る。そうだ、さっき綴くんに私の宛先のない手紙をあげたのだった。文字を食べるという綴くんは、それを紙ごともぐもぐと食べる。それを見て私は白ヤギと黒ヤギの歌を連想する。さっきの手紙のご用事なぁに。でも、綴くんは書いていたときの感情や内容を味で感じられるらしい。つまり、食べることでご用事を確認するのである。
「雪、が」
喋り始めた私に綴くんは黙っている。耳を傾けてくれているのは分かるので、私はそのまま続ける。
「雪が、溶けちゃったなぁって」
「また、来年も降るよ」
「そうだけど」
それでも、寂しくなってしまうのだ。先月まであったものが、こうも簡単になくなってしまうと。
「来年も、降るよ」
もう一度、綴くんがいう。それが励ましの言葉だと分かったので、私は「そうだね」と首肯した。
18/03/06
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