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どうか未来に幸あれと。その言葉がこんなにも残酷であるなど、幸福な人間にはわかりもしないだろう。好いた人と生きる道が嘘偽りもなく有りもしない、未来などないわたしたちにその光に満ちた言葉は何かを殺す刃物に近かった。
「君は来世を信じるか?」
「信じない」
「俺もだ」
生まれ変わっても一緒だとか、姿は違っても必ず見つけるとか、なんてくだらないんだろうって。わたしはわたしで、わたしだからこそわたしでしかなくて。魂とかそんなものじゃなくて、今のわたしとして在るものでないと来世なんてもしあったとしても何も変わらないのだ。
「駆け落ちすら意味ないもんなあ」
「やっぱり死ぬしかないか」
「馬鹿だね」
「馬鹿だな」
わたしたちは杯を交わす。幸あれと言った人と同じ仕草でグラスを掲げて、未来を終わらせる。
「おやすみ」
わたしたちの全ては今のわたしたちで完結する。