booklet


◎2019/12/23(Mon)

止められない赤髪の狂戦士と槍兵


「マスター!いい事思いついたぜ!」
 ギザギザの歯を見せ、笑顔でこちらに話を持ちかける森長可ほど不安なものはない。
「……いや、今はいいよ森くん。今回は隠密に専念したいから」
「あ?そんなの目の前の有象無象共をブチ殺したら万事解決だろ」
「うむ、一理ある」
「急に賛成しないで下さい書文先生」

◎2019/12/20(Fri)

菅野と一緒に月を眺める


 パイロットである菅野さんにとって、月は私よりも身近な存在なのかもしれない。
「夜はあまり飛ばねぇよ」
 帽子を取った菅野さんは、いつもの暴言を言い放つ勢いとはうってかわって、夜の風のように穏やかだった。
「夜は昼間と違って視界が悪いからな。指で数えるくらいだ」
「そうなんですね、てっきり」
 あんなに自由に空を駆け描く菅野さんを見ていると、月さえもひとっ飛び出来るのかと思っていた。
「てっきり……なんだよ」
「いいえ何でも」
「バカヤローコノヤロー、気になるじゃねーか」
 月に行ったことがない菅野さんを見て、私は少し安堵した。

◎2019/12/15(Sun)

アーカードのデザート


 仕方ない、というのは彼の最大の譲歩であるらしい。
「本当は頭から足の先まで飲み干したいのだが、そうなるといかんせん人間ではなくなってしまう」
「物凄い物騒なセリフですが、人並みに気遣いが残っている事に安心しましたよ」
「自身の眷属の血を飲むなど、悪趣味も甚だしい」
「……あぁ、はい。そうですか」
 ドラキュラのよく分からない感性はともかく、アーカードさんは人間としての私の血が非常に好みらしい。早く、と急かす何百歳の化物に、私は渋々ナイフを取り出して自分の指を切ろうとする。元々戦闘兵でもない私がナイフを持つのは護身用もあるが、大体はアーカードさんに血をあげる為に留まっている。
「………」
「どうした?」
 痛いのは、あまり好きではない。
「ようやく私に血を与えるのが嫌になったかね?いや、君はそれ程露骨な態度を出す女じゃない。それならば……」
 白い手袋をした大きな掌が、私の矮小な手を包む。
 痛みは嫌いかね?と地の底から響くような声が耳元で囁いた。
「大丈夫、痛みは一瞬だ。この鋭利な刃先は、君の白くて健康な皮膚をあっという間に裂き、赤く豊潤な血を流す。たったそれだけだ」
 その恐怖さえ素晴らしい、と残す彼の笑みは、最早私にとって嫌がらせ以上の何ものでもない。

◎2019/12/14(Sat)

豊久に胸が好きかと訊く


 オルミーヌさんが相も変わらず織田さんに胸を揉まれ追いかけている姿が見える昼下がり。顔を紅潮させて拳を振るう同僚に高笑いしながら逃げるおじさん。それから上下に揺れる彼女の豊かな左右の膨らみ。
「どうかしたと」
 横から聞き慣れた訛り言葉。長身を屈ませ、彼のクリクリした丸い瞳が私を不思議そうに見ていた。お疲れ様です、修練でしたか?と聞くと、ん、と短く答えた。
「豊久さんも、オルミーヌさんの胸がお好きですか?」
 何気なく豊久さんに訊いてみた。彼の所謂色沙汰の話を全く聞かないが、年齢から察してそういう話があってもおかしくない。それに皆はあまり言わないけれども、それなりに端正な顔立ちだと思う。きっと一つや二つ掘り返せばあるはずだ。そして問いたい。そちらの世界で胸はステータスなのか、と。
「好く好かんゆう問題か?じゃっどん、オルミーヌのは邪魔じゃなあ」
 ははぁ成る程。
「あれくらいあっても、邪魔なだけですかねぇ」
「ヌシは、もっと肉付けっど」
 元気な子供ば、産めん。
 そう言って何処かへ行ってしまった。
 意外と心配性なんですね、と与一さんに話すと、だから男運ないんですよアナタ、と言われた。何故。