booklet
ドラルクと踊りたい
「例えば私が隣国の姫のように、今宵ダンスを誘ってくれないだろうか」
「頭大丈夫かい、君」
手の甲を上にして徐ろに差し出す私に、ジョンを抱えたドラルクは怪訝そうな表情をした。ロナルドは仕事の馴染みの酒場で呑み会だと言って出かけたきりである。おそらく帰るのは朝方だろうが、それは日常茶飯事だった。つまりこの事務所で何をしようが、明日の朝になるまで家主から言及される事は一切無い。
「だからここでドラルクと踊っても何も問題は無い」
「絶賛私の思考が音速の勢いで置き去りにされているんだけど。何でダンス?」
「だってドラルク、ここに来る前は自分の古城を持っていたんだろう?そこでずっと暮らしていたってロナウドが言ってた」
あぁ、と言葉にならない声を漏らすドラルク。彼の血色の悪い顔には、苦虫を噛み潰したような険しい皺が顔の中心に寄っている。
「いいじゃないか減るもんじゃないし。ジョンだってドラルクが踊ってる姿見たいよねぇ」
ジョンは嬉しそうにヌー!、と鳴いた。
「城に住んでいた事と踊りたいはまた違う話だと思うがね」
「同じだよ、ドラルク伯爵。女性というのは、城に住うミステリアスな孤高の男性と一時のダンスを踊りたいと思うものさ」
それこそ、自分とは異なる想像を膨らましてね。
「そういうものかい?」
「そういうものだとも」
「……もっと君に可愛げがあったらまた違ったんだろうけど」
「これ以上可愛くなってしまったら私を直視できなくなってしまうよ」
「出たぁ自画自賛」