01


 キャンサーはガラクタと化した変形コグを手に取った。パラパラと表面から剥がれ落ちる塗装のハゲは、戦果の熱が冷めきる時間を表していた。風も吹かない遺体だらけの荒地で、キャンサーはディセプティコンの山からエネルゴンや自分のボディに使えそうなパーツを回収する。それが毎日の始まりだった。
 スカベンジャーズ回収専門部隊と呼ばれるならず者集団に出会ったのは、つい最近のことである。オートボットでもなくディセプティコンでもない。インシグニアを持たないキャンサーを、彼らは彼らなりの方法でキャンサーを受け入れた。とどのつまり、軽い戦闘になったということだが、それでも下手な会話術よりもそちらの方が分かりやすい。最近少しばかり物事に対して脳筋と化しているのは、置いとこう。

「キャンサー!」

 キンキンとする声でこちらを呼ぶのは、このメンバーの中では唯一と言っていい。キャンサーは排気音を出して振り向いた。

「どうしたのミスファイア?」
「なぁなぁ!これ見て」

 ん?とミスファイアの持つ手に顔を向けた。両手で隠す様に握られた黒い塗装の手。ワクワクと浮き立つミスファイアの表情には嫌な予感はしたが、つい癖で彼の悪戯に乗ってしまった。

「ぎゃっ!」
「ひっかかったー!」

 お前は小学生か。

「そこの触覚出せ。今度こそ引きちぎる」
「遊んでないでさっさと作業しろ」

 クロックは呆れた様に錆びた機体からジョイントを回収していた。

「先生違います。ちゃんと仕事をしていた所にミスファイア君がちょっかいを出してきたんです。私は悪くありません」
「なら一々ソイツの相手するな、日が暮れるぞ。あと先生じゃない」

 なんだかんだ言いながら受け答えするクロックは、ディセプティコンながらいい人の部類に入るのかもしれない。いや、この場合、良いサイバトロニアンと言うべきか。

 私は、言うなれば有機生命体ニンゲンである。それも彼らが最も嫌悪しているであろう、地球人だ。成り立ちが特殊である以上、私は極力他のサイバトロニアン達に関わらない様にしていた。地球は彼らにとって好ましい記憶ではない筈だし、その経緯を話したとて、誰もが快く受けとめてくれるとは考えにくい。オプティマスのような聖人めいた人物ならともかく、彼らにとっても、"未知"とは想像し難い恐怖なのだ。
 だから今回のスカベンジャーズの出会いも、単なる挨拶程度で済ませておきたかった。ここで会った事は誰にも言わないし、貴方達も私のことを言わない。ただ、不時着してしまった船の修理の為、双方の損得が納得する結果で終わりたい。それだけで良かった。
 しかし、彼らにも彼らなりの考えがあるのは事実である。
──それで済むと思うか?
 開口したのは、チームを取り仕切るクロックだった。勿論そうだ。相手は一体のサイバトロニアンで、枯渇しているにしても、武装した5体のディセプティコンを前に逃亡出来る確率は限りなくゼロに等しい。
 私は仕方なくハッチを開いた。キャンサーの胸部部分を開け、浸透液で満たされたメインルームから現れた私を見た彼らは目を丸くした。
──私、人間なの。
 貴方達の大嫌いなね。





「なー、早く出てこいって」

 ミスファイアの急かす声は、今日だけで何回聞いただろう。

「分かったから、もう」

 内部の浸透液を排水し、軽く髪を後ろに掬い上げてからハッチを開けた。物珍しそうにこちらを眺めるミスファイアを余所に、カナンは頬に伝う雫を掌で拭った。

「……なに?」
「触っていい?」

 え?と注意散漫症候群に聞き返した。

「だから、お前に触っていいかって」
「………あー、うん。いいけど」

 しまった、と自分の言葉を後悔したが、もう既に遅かった。金属の大きな掌がカナンを包み、思い切り自分の頬に近付けた。

「すげーフニフニしてるー!」

 気持ちわりー!と面白がりながら叫ぶミスファイアの手中で、カナンは思い切り金属の頬を殴り続けた。それでも、超機械生命体からすれば虫に刺されるぐらいの違和感で、カナンの拳は無意味に赤く熱を持つばかりだった。このやりとりは、クロックの呆れた静止が入るまで永遠に続く。

「今日はここで野宿だな」



   
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