無花果様に甘やかされる話

ばさり、と私がミスをしてしまった書類をデスクに置いて無花果さまは大きく息を吸った。
次に飛んで来るであろう叱責に、自然と肩が竦んで、ぎゅっと目を瞑る。
けれどどれほど待っても、想像していた雷は落ちてこない。
恐る恐る、目を開く。はあ、と無花果さまがため息を吐いた。

「名前、お前は本当に粗忽者だな」
「す…すみません…」

正しくその通りで、謝るしかできない。
自分が情けなくてじわりと涙が浮かびそうになるのを必死で我慢した。
こんな、怒られて泣くようなのは、強くて凛々しくてかっこいい無花果さまが一番嫌いな女だろう。
この人には嫌われたくない。だから、泣くな、泣くな、泣くな!
自分にそう言い聞かせて、ぐっと唇を噛んで、せりあがりそうになる嗚咽を耐える。
私の方に無花果さまの手が伸ばされる。まさか、叩かれるのか。
びくりと震える私の頬に触れた無花果さまの手は、予想に反してとても優しい。

「だが、そんなお前を私は気に入ってしまったのだから、私も大概だな」

私の涙を拭って、無花果さまがふわりと笑った。

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