乱数が生かしてくれる話

インターホンを押しても、当たり前のようになんの反応もなかった。
気にすることもなく、僕は持っていた合鍵を取り出して扉を開ける。家の中は暗い。
玄関近くにある電灯のスイッチを押して電気をつけた。
ワンルームの部屋、玄関近くのキッチンスペースに座り込んでいた名前に声をかける。

「おはよっ名前、今日もいい天気だよっ!
今日はね、名前に見せたいものがあって持ってきたんだ〜。なんだと思う?わかんない?そっかそっか、じゃあ教えてあげるね。じゃじゃーん!僕のブランドの新作だよっ!名前に絶対似合うと思うんだよね、ほら、これをこうして、こうしたら……うん、僕の見立ては正しかったね。やっぱりすごく似合ってるよ!折角だから、ヘアメイクもして、デートに行こう。この間、名前が好きそうなお店が新しく出来たんだ〜。名前と一緒に行きたかったから、僕もまだ行ってないんだよね。でも評判は良いみたいだから安心してねっ!
今日もいっ〜ぱい遊ぼうね。ねっ、名前!」

口を挟む隙もないほどにまくしたてて、僕は一度息を吐いた。
名前に目線を合わせるようにしゃがみ込み、まっすぐその顔を覗き込む。

「だから、今日死ぬのはやめといたら?」

僕がそう言うと、名前は自分の手首に添えた包丁を見て、僕を見て、そしてゆっくりとその手を下した。

「…うん、そうしようかな」
「よーし、そうと決まれば早速出かけよ〜。朝ごはんも外で食べるよね?僕のおススメのお店に連れてってあげるね!
あ、その前に僕の事務所に寄って、着替えとメイク済ませちゃおっ」

包丁を握る指を丁寧に解いて、代わりに僕の手を握らせる。名前の手を引いて立ち上がると、僕は彼女を明るい外へと連れだした。
そうして僕は今日も名前を生かす。この世界に名前の気を引くオモシロイものがある限り、きっと、明日も、明後日も。

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