それは彼女にしては、珍しく、子供らしい素朴な質問だった。


「イタリアってどんなとこなんですか?」


ひとしきり叫んで気が済んだのか、依織は来た時よりもややすっきりした顔で兄貴分二人に尋ねる。
鬼道と佐久間は顔を見合わせると、小さく首を傾げた。


「そうだな…木材が降ってきたり、ペンギンが空を飛んでたりする」

「え」

「こら、からかうな佐久間」


ぴしゃりと言った鬼道に、佐久間は子供のようにケタケタと笑う。
一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた依織は、すぐさま「別に信じませんから」と眉をつり上げた。


「あとは、…女たらしが多いな」

「はぁ」


次にどこか険しい表情になって答えたのは鬼道だ。
「アイツもよくナンパされたんだよ」と、佐久間が耳打ちしてその訳をこっそりと教えてくれる。


「まぁでも、それは私にはカンケーない話ですよね。流石に子供をナンパするような人はいないでしょ」

「さあ?分からないぞ」


一転、ニタリとした鬼道に依織は眉根を寄せた。
鬼道はサングラスから薄く目を覗かせて、喉を震わすようにしてくつくつと笑う。


「あっちでもそういう格好≠して大人しくしておけばの話だけどな」

「…やっぱ楽しんでんじゃないですか」


性悪め、と呟き依織は顔をしかめた。
眼鏡こそとったものの、彼女はまだ帝国学園の制服を着たままである。


「別に、こんな小物まで用意する必要なかったんじゃないですか?」

「眼鏡は大事だぞ?顔を覚えられない為にな」


ぶすっとふくれ面になった依織の頭を、佐久間は楽しそうに撫で回した。
佐久間は昔から会う度こうして彼女を猫を扱うように可愛がっているので、依織も今更それを嫌がりはしない。


「まぁ何にせよ、あちらでは格好を気にする余裕などないだろうな。精々、泥だらけになって頑張ってこい」

「…へーい」


嫌みにしか聞こえないが、激励は激励。
一瞬言い返そうか迷った後、依織は大人しく頷く。


「─あ、そうだ。依織、これを」


その時、佐久間がふと思い出したように懐から一枚の紙切れを取り出した。
二つ折にされたその紙切れと佐久間を見比べ、依織は首を傾げる。


「次郎兄さん、何ですかこれ」

「イタリアでお前の案内役をしてくれる奴から頼まれた、土産のリストだよ」


手渡された紙切れを開いた依織の表情が、紙面に目を落とすのと同時に曇った。
紙切れには細かい字でずらりと、十種類以上の土産の商品名が書き連ねられている。


「案内料と言うことで、割りきってくれ」

「…お金はどっから出るんすか」


鬼道がするりと懐から黒いカードを取り出すと、依織はついに諦めたようにがっくりと肩を落とした。