「ホントに良かったんすか、私で」


帝国戦前日を迎えた放課後。
フィールドに仰向けに倒れた依織が、呟くように言った。
その傍らに座り込んだ倉間は、額に浮かんだ汗を拭いながら顔をしかめる。


「何だ、怖じ気ついたのかよ」

「違いますって…」


よっこいせ、とくたびれた様子で起き上がり、依織は髪についた芝を払った。
ちらりと脇見すると、ベンチに深く腰かけた神童が、戦略を事細かに書いてあるのだろう手帳をじっと凝視しているのが見える(そして茜が絶えずシャッターを切っている)。

アルティメットサンダーに欠かせないのは強力なストライカー。
今の雷門にいるFWは、倉間と依織、そして剣城の三人。しかし剣城は練習にも来ず、タクティクスに参加してくれるとは思えない。
それを考えると、ラストキッカーは残る二人にしか出来ないわけなのだが。


「ストライカーの称号を貰っても良いのか、って話ですよ。一時的だとしても」

「……」


膝を叩いて立ち上がった依織を、倉間は睨むように見上げた。
一気にジャグを傾けると、口の端から溢れたドリンクが顎を伝い、首筋の汗と混じる。
それを乱暴に裾で拭って、彼もまた立ち上がった。


「良いわけねーだろ。俺だって悔しいもんは悔しいさ」


だがな、と倉間は頭一個分は優に違う高さにある目を見つめ、真剣な声で続ける。


「それ以上に、俺は、勝ちたいって気持ちのが強い。お前だってそうだろ」


勝ちたいんだろ。
倉間は茶化す気配も何もなく、そう彼女に問いかけた。

依織は軽く目を伏せる。
勝ちたい、それに間違いはない。それと同時に、勝たなければならない。自分が本当に自由になるために。


「…そうっすね」


帝国の鼻っ柱も折りたいですし、と依織はいつものように何かを含んだニヤリ笑いを浮かべる。
だろ、と満足げに頷いた倉間は、空になったジャグをフィールドの外へ放って依織の背中を叩いた。


「だったらゴチャゴチャ言ってる暇なんてないだろ。おら、続けるぞ!」

「うーっす」


「神童ー!」名前を呼ばれた神童が顔を上げる。
依織は眉間を揉んで、気合いを入れるためにもう一度膝を叩いた。