猫、遭う
俺はニヒルな猫。現在、雷門中に変わる新たな寝床を探して、旅の真っ最中である。
しかし、なんだな。
昼の商店街ってなぁ、夕方と比べて幾分か静かだから歩きやすい。
日が落ちれば、ここは夕飯の材料を買いにやってきた主婦たちのテリトリーになっちまうからな。
商店街を抜けて、更に静かな通りに出る。
その途端、風にのってどこからかツンとした臭いが漂ってきた。ちなみに、俺はこの臭いが嫌いだ。
「ニャー…(どっか違うとこに移動するか…)」
呟いたその時、背後の茂みが微かに揺れた。
何だ。敵襲か、それとも雀か。
後者だったら運動がてら追い回してやろうかと思ったが、茂みの影から出てきたのは普通に人間だった。
「ふー…脱出成功」
満足げに呟いたそいつが、額の汗を拭う。
するとこちらに気がついて、あろうことか小さいガキみてぇに目を輝かせ始めた。
「あ、猫!」
少し大きくなった声に、耳がビリビリと震える。
一歩下がって臨戦態勢をとると、そいつは「そんなに怖がらないでよ」と、恐る恐るこちらに手を伸ばした。
「怖くないよ、こっちおいで〜…」
「フーッ(俺を甘く見ると後悔するぜ若造)」
じり、じりと這い寄るそいつ。
少々手荒だが、引っ掻いてやろうかと思っていると、後ろからパタパタと人間の足音が聞こえてきた。
「見つけたわよ、太陽くん!!」
「うげっ」
逃げかけたそいつの首根っこを掴み、「しょうがないんだから!」と白服を着た女は目をつり上げる。
「冬花さん、猫が…」
「だーめ。野良猫は病気を持ってることがあるから、安易に触っちゃいけないのよ」
さぁ戻りましょう、とそいつは女に腕を引かれ、名残惜しそうにこちらを見ながら消えていった。
…ふー。思わぬアクシデントだったな。年甲斐もなく騒いじまったぜ。
俺はニヒルな猫。
新たな寝床を探して、旅を続ける。