case2:幼児化

総帥から呼び出された俺は、部屋に着くなり絶句することになった。

…総帥の膝の上に何か乗ってる。

「……総帥、何ですかそれは」

「見ての通りだ」

無表情で淡々と述べた総帥の膝の上。
見たところ、3つ4つと言った年頃の、白いワンピースを着た幼女が涙目でちょこんとそこに座っていた。

「…幼女誘拐、」

「違う」

間髪入れず否定の言葉。良かった、これで肯定でもされたら、流石の俺も警察に通報したところだろう。
…で。

「総帥のお子さん…では、ないですよね」

「私は独身だ。…」

自分で言って物悲しくなったのか、総帥が目頭を押さえる。
膝の上の幼児がそれに気付き、

「…だいじょーぶですか?」

たどたどしく言って、総帥の服を引っ張った。
総帥は不器用にその頭を撫でつけると、足元から何かが入っているらしい紙袋を取り出し、俺に放る。
受け取った俺は、眉間に皺が寄るのを感じた。

「何ですか、これは」

「こいつの物だ」

こいつ、と言ったところで総帥は立ち上がり、幼児を俺の方に押しやる。
バランスの取れなかった幼児が、俺の膝あたりに頭をぶつけて「ぷょっ」と妙な声を上げた。
紙袋をのぞき込み、再び涙目になった幼児と見比べて、困惑する。

袋に入っていたのは、学園の制服だった。
しかも、普通のサイズの。

「総帥、これがこいつの物って…」

「…ああ、少し語弊があったか」

正しく言うと、こいつがさっきまで着ていた物だ。

カチ、カチ、カチ

総帥の言葉を聞き、頭の中で秒針が三回ほど鳴ったところで、俺は足元の幼児を抱き上げる。

キョトンとこちらをみて首を傾げるそれと、

『─鬼道さん!』

マネージャーが、だぶった。



「おいで」

「はぁい」

両手を広げた源田の胸に飛び込む幼児。
…もとい、小さくなったマネージャー。

源田はそれを抱き抱えると、微笑んだ。

「可愛いな」

「否定はしないが源田、順応しすぎだ」

言ってから、溜息を吐く。
源田に抱えられたマネージャー(小)は、急に高くなった視線にはしゃいでいる。

「…また、総帥の例の実験か?」

「そうらしい」

彼女が小さくなった原因は、前回と同じ理由だった。
総帥も、体に害がないからと言ってマネージャーを実験体にしないで欲しい。

「今度はいつ戻るんだ?」

「1時間程だそうだ」

「案外短いな」

「源田、そんな露骨に残念そうな顔をするな」

眉を下げて腕の力を強めた源田を見上げて、マネージャー(小)が首を傾げる。

「どーしたんですか…?」

「小さくなっても敬語なんだな」

面白そうに笑った佐久間が、幼児特有の桃色の頬をつつく。
マネージャー(小)はくすぐったそうに身を捩った。

「大方、癖が抜けてないんだろうな。…源田、ちょっと代わってくれないか?」

そろそろと興味深げにそちらに手を伸ばした寺門を見て、マネージャー(小)は涙目になった。

「…こあい」

ひしっと源田にしがみつくそれに寺門はショックを受けたが、…まぁ、仕方ないだろう。

「その面構えじゃなぁ…」

「うるさいっ」

笑いをこらえる辺見を、寺門は涙目で怒鳴った。
ふいに、慌てたように源田の腕から離れたマネージャー(小)がこちらへ走り寄る。
抱きついてきたのは、俺の足元だった。

「え、何で急に…」

「源田のそばにいると危険だって思ったんじゃねーの」

へこんだ先に追撃するかのような咲山の台詞。
源田は寺門の隣でがくりとうなだれた。

足元のマネージャーを持ち上げて腕に抱えてみると、あどけない瞳と目があった。
にこ、と笑ったそれに、まだ小さかった頃の妹を思い出す。

「鬼道、もう一回だけ抱っこさせてくれないか…」

「…却下」

少し勿体ない気もするが、源田がそっちの趣味に目覚める前に早く元に戻ってもらわなければ。

源田に申し訳なさそうにしたそいつを抱え直して、そう思った。