猫、焦る

俺はニヒルな猫。
雷門中に変わる新たな寝床を探して、旅をしている真っ最中である。

日が天辺からほんの少し傾いた頃、俺は河川敷までやって来ていた。
普段ここは散歩コースに含まれるだけの場所だったが、ちゃんと探せば良い寝床が見つかるかもしれない。


「コラッ、お前ら真面目に練習しろー!」

「半田監督が怒った〜!」


…グラウンドには近寄らない方がいいな。
白黒のボールを追いかける大勢のガキンチョを眺めながら思う。
あの年頃の子供は猫だ犬だ、とにかく動物を見つけると追いかけてくるやつが多い。
流石の俺でもあの人数から逃げるのは少々キツいものがある。

くわわと欠伸をして、俺は川岸のベンチに潜り込んだ。
今日は朝から動き回っていたからな。少し昼寝でもして鋭気を養おう。

そう思って瞼を下ろしたその時だった。


「よっしゃー、今日も釣り日和だな!」


頭の真上から聴こえたやかましい声が鼓膜を揺らす。
何だ、また敵襲か?
ベンチから少し顔を出すと、そこに誰かが腰掛けているのが見えた。


「浜野くんからすれば、晴れてればいつでも釣り日和でしょう」

「あはは、そうだな〜」


ガキか。昼前に遭遇したやつよりデカイか同じかってところだな。
色黒い方はさっさと準備をして、手慣れた様子で釣竿を振る。
一方で細っこい方は、ぼんやりとした手付きで餌を取り付けていた。


「っお!きたきたー!」

「うわ、早いですね」


色黒いガキがギュルギュルと勢いよくリールを巻く。
確かに随分と早い食い付きだ。きっと頭の軽い若い魚だろう。


「っと、釣れたー……あああ」


ザパッと川から引き上げた獲物に、ガキの声が落ち込む。
釣り上げた魚はやっぱり未熟そうな小さなもので、しかし威勢だけは良かった。魚の言葉は分からねぇが、「離せ」と言っていることだけは明確だろう。


「ちぇっ。リリースリリースっと…」

「残念でしたね」

「あっ」


突然ガキが声を上げた。
何だと思った瞬間、俺はギョッとする。

目の前に魚が降ってきた。


「ギニャーッ!!(なっ、何すんだてめえ!!)」


どうやらガキの手から逃れたらしい魚は、ただひたすら無言でびちびち俺の前で跳ねまくる。
うおおっ、濡れる!水飛沫がかかって濡れる!!

俺はたまらずベンチの下から飛び出し、猛ダッシュでそこから走り出した。


「はー、焦った。ほい、今度こそリリース」

「(今ベンチから、猫が飛び出して行ったような…?)」






くそっ、何と言う失態だ。水がかかった程度であそこまで取り乱しちまうたぁ…俺もまだまだだな。

しかし、やはりここはダメだ。
チビガキは多いし、よく考えると橋の上を通る乗り物がうるさくて寝床に出来るような環境じゃねぇ。


「にゃーお…(仕方ねぇ、他を当たるか…)」


俺はニヒルな猫。
安息の寝床探しは楽じゃない。