小学生時代、天馬と
「ねぇサッカーやろうよ〜!」
「また今度って言ったろ」
帰り道。サッカーボールを抱えた天馬に見つかり、さっきから時間にして十分ほど逃げ回っている。
あれが友達じゃなかったら振り向き様に蹴りを叩き込んでるところだ。
「この前だってまた今度って言ってしてくれなかったじゃんか!」
「じゃあ、いつか」
「5日?」
「イントネーション違う」
ああ、何で葵はこんなに天馬がしつこい日に限っていないんだろう。
風邪引いて病欠したからか、そうか。
しかしそろそろ私も疲れてきた。
こっちは病院に行って太陽を見舞って、帰ってから特訓しなきゃならないってのに。
「ねぇったらー!」
「ああもう、しつ…「しつこい男は嫌われるよ、君」
ふいにそんな言葉が割り込んできて、天馬の声がしなくなった。
振り向くと、天馬がランドセルを学ラン姿の学生に掴まれてしどろもどろしている。…うげぇ。
「人の大切な大切な妹分にアプローチとは、良い度胸だね。君、どこ小かな?」
「え、え、え?」
「…小学生になんて脅し方してるんですか、良兄さん」
高校生のくせして、なんて人だ。
良兄さんはにっこり微笑んで私を見返した。
「いや、ね。この前和樹が、君が同級生っぽい子に追いかけられてるのを見かけたっていうから、心配になって」
「私は良兄さんの将来が心配です」
「はは、相変わらず口達者だなぁ。ところで、」
良兄さんがまたにっこり笑う。ぞわりと背筋に鳥肌が立った。
「良兄さん、じゃなくて、良お兄ちゃん、だろ?」
…さぶいぼさぶいぼ。だけどこうなった良兄さんは私には止められないので、大人しく従っておく。
「…とにかく、友達が怖がってるんで離してやって下さい、良…………お兄ちゃん」
「はい、良くできました」
とたん、良兄さんは上機嫌になって天馬を離した。
ささっと逃げるようにこちらに駆け寄ってきた天馬は、信じられないような目で私と良兄さんを見比べる。
「え、お、お兄さん…?」
「…従兄のな」
軽く説明すると、私が世話になってる従姉の、一番下の弟。それが良兄さんだ。
良兄さんは何だか年を重ねるごとに(私に関してだけ)変態化してるって和兄さんが言っていたことがある。
確かにこの間「ねぇ知ってる、いとこ同士って結婚出来るんだよ」とか何とか笑顔で言われた時は、なんか身の危険を感じた。
「つーか、良お兄ちゃん部活はどうしたんですか、部活は」
「今週はテスト期間だからね。部活動も休みなんだ」
何と言うことだ…
「それより、今日はこっちの家に泊まりに来ない?和樹や大兄さんも会いたいだろうし。久し振りに一緒にお風呂入ろうよ」
「そんな小さい頃の話を引き合いに出さんで下さい」
天馬がギョッとしたので、いつもより切り返しが早くなった。
もうダメだこの人。イタリアでゲーム会社の社長やってる冬兄さんも大概だけど、良兄さんはその比じゃない。変態が堂に入ってる感じ。
ナチュラル・ボーン・変態…そんな従兄は嫌だ…
「ちぇ、つまらいなぁ」
「唇を尖らせないで下さい。女子ですか」
しかも顔が良いから様になってるのが腹立つ。
早く帰ってテスト勉強頑張ってください、とたたみかけると、良兄さんは満足したのか「はいはい」と手を振って家路についた。
その姿が曲がり角に消えるのを確認して、私は隣で呆然としている天馬を振り返る。
「天馬…今日は、三十分だけ付き合ってやるよ、サッカー」
「え、…えっ、ホント!?」
「ただし、今後あの人を見かけたら絶対に近寄るなよ。目が合わないうちに逃げろ、マジで」
「う、うん」
少し顔色の悪くなった天馬の肩を掴んで力説したら、何だかまたあの人の視線を感じた気がしたので慌てて手を離した。
従兄がドSの変態で困る
「従兄のお兄さん、なんだよね…?」
「昔はまだまともだったんだ、昔は」