病院にて、太陽と

靴からスリッパに履き替えて、病院内を闊歩する。
途中、すれ違った冬香さんに会釈して、私は目的地である太陽の病室へ向かった。


「太陽〜。来てやったぞ、と…?」


扉を開けて声をかけるも、反応がない。
中へ進んでみると、ベッドに膨らんだ掛け布団があった。


(…寝てんのか?)


いや、それにしては膨らみ方に違和感があるような。
眉間に皺を寄せつつゆっくりと布団をめくる。
そして思わず舌打ちした。


「あんにゃろ…!」


布団の下には器用に丸められた座蒲団が数枚。ベッドの中はもぬけの殻だ。
あいつ、また脱走しやがったか。

しかしいつもの脱走経路である窓を見てみると、鍵はしっかりと掛かっている。
外から鍵をかけるなんて出来ないし、冬香さんが閉めたにしても多分太陽の不在に気がつくだろうし。

と、なると。
私は病室の隅にあるロッカーから箒を取り出した。


「そこかァッ!!」

「ぐふぅっ!?」


床に跪き、ベッドの下を箒の柄で突く。
すると、やはりと言うか何と言うか、柔らかいものを突いた感覚がして、くぐもった声が聞こえてきた。


「いったたた…ひどいよ箒で突くなんて!」


開口一番、太陽がベッドの下から這い出てくる。
ていうか、そんな埃っぽいとこに隠れるなよ。病人。


「脇腹に刺さったんだから…」

「やかましい。攻撃されたくなかったら素直にさっさと投降しやがれ」

「ちぇっ」


つまらなそうに唇を尖らせて、服についた埃を払った太陽はベッドに戻る。
あ、コイツ反省してねーや。


「…まぁ、とにかく鉛筆出して。今日は英語な」

「う〜。英語苦手…」

「お前数学も理科も社会も苦手だろ」


毎回同じセリフを聞かされる身にもなれってんだ。
私だっておばさんに頼まれなきゃこんな問題児に勉強教えるなんて暴挙には出ない。


「つーか、学校の友達に時々ノート持ってきて貰ってんだろ。そいつらにも少しは勉強教えてもらったらどうなんだよ」

「うーん。みんなとは、ノートもらった後サッカーの話ばっかりして面会時間が終わっちゃうんだよね」


効果音をつけるなら、「てへぺろ!」ってか。ざけんなよチキショー。

太陽は私とは違い、違う町の学校に通っている。
名前は確か、あら…あら…あらいぐまだっけ。何か違うな。
とりあえずその学校の友達も、たまにこいつの見舞いにくるらしい。


「じゃあ今度会った時に教えてもらえ。良いか、絶対だぞ」

「前フリ?」

「んなわけねーだろ」


もうやだこいつ殴りたい。
震える拳を押さえつけ、私は教科書を開く。


「単語とかはこないだ教えたろ?はい、これ訳して」

「うん。えーっと…『私はホメ、ようこそホメ』」

「違うわボケ」


どっかで見たことあるような答え出しやがってこいつわざとじゃないよな。
訝しみながら間違いを訂正して、次の問題へ。


「…じゃあこっち」

「うんと…『バネを持ってこい』」


こいつ分かってて言ってるだろ。
とりあえず「これは正解でしょ!」と自信満々に言ってきた太陽の横っ面を私は張り飛ばした。


すごく世話の焼ける幼馴染み


「…じゃあ、今度はこれ」

「僕はサッカーが大好きです!」

「何でこれだけ合ってんだよ…」