商店街で、霧野先輩と

今日は休日だけど姉さんが出張でいないので、昼は雷雷軒で済ませることにした。
あそこの店長さんが変わったのは3年半前のことで、こっちに来る度にお世話になってるので、店長さんとは顔パスで裏メニュー頼める程に顔見知りである。


(今日は醤油の気分)


最近はバタバタ忙しない毎日を送ってたから、何となくあっさりしたものが食べたい。
トッピングでチャーシュー追加してもらおう。

…とか、お腹を空かせて商店街のアーケードを潜った、ら。


「なぁなぁ良いじゃん君〜」

「俺らと遊ぼうぜ?」


…何かものすごいベタな台詞が聞こえてきた。
が、幸いなことに声をかけられたのは私ではない。
何となく声のした方を振り返ってみて、私は思わず声を上げた。


「霧野先輩?」

「え?…あっ、お前は」


そこには、高校生もしくは大学生2人に絡まれて、疲れた顔をした霧野先輩がいた。
霧野先輩は最近まともに知り合ったにも関わらず、咄嗟に私の腕をがっしりと掴んで自分の方に引き寄せる。

そしてキョトンとする私に、早口で耳打ち。


「頼む、こいつら追い払うの手伝ってくれ。こいつら俺が男だって、信じてくれないんだ」

「はぁ…学生証とか、ないんですか」

「今日に限って家に忘れてきたんだよ…」


ぼそぼそ声を交わし合う私たちに男2人は何を思ったか「おっ、友達?」と私にまで目をつけてきた。


「いーね、人数多い方が楽しいよ。なっ、遊ぼうぜ」

「対比が合わなくなるので嫌です」

「何で〜?男2人女子2人じゃん」


まともに女子扱いされたの地味に久しぶりかもしれない。
というか、冗談でも何でもなくこいつら本気で霧野先輩のことを女だと思ってるようだ。うわぁ。


「先輩、もういっそ脱いだらどうですか手っ取り早く」

「それも考えはしたが、俺はこの年で前科持ちになりたくないんだ」


考えてはしたのかよ。この先輩思ったよりアグレッシブだな。
よし。だったらフェーズ2。


「せいっ」

「おわぁッ!?」


背の低いほうに素早く足払い。
コンクリートとこんにちわしたその隙に、和兄さんからもらったスタンガンを突きつける。


「いい加減にしてくださいよ。この人は男だし、あんたらとは遊びません」

「この…」


ちょっと先急ぎすぎたか、どうやら作戦は失敗したようだ。男の逆鱗に触れてしまったらしい。
目尻をつり上げた2人に心底どうしようかと先輩と目を合わせた、その時。


「めぇ―――んッ!!」

「いでぇッ!?」


ばちーん、と中々痛そうな音が響いて、男の一人が後頭部を押さえてうずくまる。
その先にいたのは、私のよく知ってる人だった。


「あ、和兄さん」

「えっ、お前のお兄さんなのか?」


霧野先輩が私と和兄さんを見比べて、キョトンとする。
男の後ろにいたのは、呆れ返った顔で竹刀を構えた和樹兄さんだった。


「げっ、和樹!」

「ったく…中学生相手に何絡んでんだ、2人して」


しかも知り合いと来た。
男の2人、和兄さんの同級生たちは顔を見合わせると「こいつがここにいるってことは…」と呟いて、脱兎の早さで逃げ去っていった。

それをポカンと見送る、私と霧野先輩。


「…と。大丈夫か?お前ら」

「あ。はい」

「助かりました和兄さん」


言うと、和兄さんは満足そうに笑って竹刀を長細い袋にしまう。
そして男2人が逃げた方向を見て、溜め息を吐いた。


「悪かったな。あいつら、クラスでも問題児って言われててさ…お前は先輩とお出掛けか?」


後半の台詞は私に向けて。
私たちは視線を交わして、曖昧に返事を返す。
だって私は絡まれてた先輩に遭遇しただけだし。


「ま、とりあえずああいう奴らには気を付けろよ。女子は尚更な」

「え、いや俺はおと」

「はい、和兄さん」


弁解しかけた霧野先輩の脇腹を肘鉄する。
その間に、和兄さんはタッタカと商店街を走り抜けていった。


「おま…何するんだよ」

「すいません。でも、あそこで先輩が男って分かると後々大変なことが起きるので」


私の言葉に、先輩は首を傾げる。

和兄さんがここにいたと言うことは、それは近くに良樹兄さんがいることを示す。それが双子の行動パターンだからだ。
もし私が商店街に男子≠ニいたことが知れたら…


「………」

「おい、大丈夫か?すごい汗だぞ」


にわかに心配そうな顔になった先輩に、首を振っておく。
良兄さんのことは、なるべく知り合いには紹介したくない。身内に変態がいるなんて。
…あ、でも天馬には知られてたか。


「そう言えば、お前は商店街に何の用だったんだ?」

「あ、そうだった」


途端、思い出したようにお腹が減ってくる。
多分今の一瞬で気疲れしたせいだろう(絡まれた件はあの程度じゃ気疲れの内に入らない)。


「私、雷雷軒に昼飯食いに来たんです」

「ああ何だ、お前もか。なら、一緒に行くか?」

「はい」


結局私たちは偶然のよしみで、一緒に雷雷軒に行くことになった。
そういや結局、あの2人には先輩が男だって証明出来なかったな。
…まぁ良いか。


心は男前なのにね


「とりあえず助けてもらった礼だ。奢ってやるよ」

「マジすか。やったー」