帰り道、剣城と

いつもの帰り道、ふいに「あ」と後ろから声がしたので振り返る。
数歩後ろで、さっきまで隣を歩いていた剣城がいつの間にかコンビニの前で立ち止まっていた。


「何?どうしたよ、剣城」

「…兄さんに、雑誌買ってきて欲しいって頼まれてたの忘れてた」


雑誌、と言われて納得する。
そう言えば今日は週間スポーツマガジンの発売日だった。確か付録に日本代表のブロマイドが付いてくるんだっけか。
と、そこまで思い出したところで私もハッとする。


「…そういや昼休み太陽から、スポーツマガジン買いそびれたから代わりに買ってきてくれって頼まれてたな」

「ああ…あの電話か」


剣城は隣の席だから、昼休み突然太陽から掛かってきた電話に対応する私の姿を見ていたんだろう。
私たちは顔を見合わせ、特に言葉を交わすことなく並んでコンビニに足を踏み入れた。


「期間限定…サクフワメロンパン…」

「目的はそれじゃないだろうが」


入ってすぐ目についたポップに足を止めた私の頭を小突いて、剣城はさっさと雑誌コーナーへ進む。
しかし、立ち読みしている高校生や大学生の合間をすり抜けたところで、本日二度目の「あ」が上がった。


「何だよ今度は」

「いや…」


剣城はちらりと私を見ると、ばつが悪そうに目の前の棚に視線を投げる。
それに釣られるように私もそちらを見ると、それぞれ頼まれたスポーツマガジンが一冊あった。
…一冊?


「あれ…これだけ?」

「やっぱり午前中に購買で買っとくべきだったな…」


やや諦めたように呟いて、剣城が一歩身を引く。
見上げると、剣城はツンとそっぽを向いた。


「お前が買え。幼馴染みに頼まれたんだろ」

「優一さんの分はどうすんだよ?」

「…後から借りてもらう」

「ブロマイドは?」

「………」


途端、剣城は唇を引き結んで睨むように一冊の雑誌を見る。…こいつもしかしてブロマイド欲しいんじゃないのか?

数秒、雑誌コーナーで立ち往生した後、私は考える。
太陽は特にブロマイドのことは何も言ってなかったはずだ。だったら、別にそっちは剣城に譲っても問題ないんじゃなかろうか。いや、私のお金で買うんだからあいつに文句は言わせないけど。


「じゃ、わかった。これは私が買って太陽と読む。終わったら優一さんとお前に貸す、ってことでどうだ」

「…ああ」

「ブロマイドは別にいらないから、お前にやるよ」

「………」


ほんの一瞬、剣城の表情がちょっとだけ輝いた気がするのは私の見間違えではないだろう。
剣城はしばらく薄く開いた口を閉じて、小さい声で「さんきゅ」と呟くように言った。素直なんだか素直じゃないんだか分からん。

人混みの隙間から腕を伸ばして、最後の雑誌を手に取る。
喉が乾いていたのでついでにサイダーも一緒に雑誌をレジに持っていくと、剣城も何か買うものがあったのか隣のレジに向かうのが見えた。


「お会計570円になりまーす」


コンビニって何でこうも品物が高いんだろう。ドラッグストアを見習え。
アルバイトの店員に言っても仕方ないが心の中で文句を垂れながら会計を終える。
剣城は一足先に店の外で待っていた。律儀なやつである。


「…ん」

「あん?」


ごめ〜ん待った〜?なんてふざけながら剣城の元に駆け寄ろうとした寸前、目の前にレジ袋が突き出されて思わず足が止まった。
何これ、と剣城を見ると、「やる」と短く返ってくる。
手を引っ込めそうにないので大人しくそれを受け取って、中身を見ると。


「…あっ、サクフワメロンパン」


店に入って私が目につけていたメロンパンが入っていた。自分のお金じゃ雑誌とサイダーでギリギリで、買うことが出来なかったのだ。


「もらって良いのか!?」

「別にいらねえなら俺が食べる」

「ううん食べる!ありがとう剣城!」


メロンパンごと袋を抱き締めると、剣城が心底びっくりしたような顔になって私の顔をまじまじと見る。
何だ、ツチノコでも見つけたような顔して。尋ねると、剣城は数回まばたきした後私から目線を外した。


「いや…何でもない」

「? ふぅん」


何かよく分からないけどメロンパンメロンパン。
病室で食べるわけにもいかないので、とりあえずメロンパンを鞄にしまう。どうせ太陽が中庭に行きたいって駄々をこねるだろうから、その時に食べよう。


「さっ、日が暮れる前に行こうぜ。早くしないと太陽から催促メール来るかも」

「ああ」


─こうしてみると、不思議なもんだ。
ほんの数ヵ月前まで、剣城はシードで、私のことだって煙たがって接触すら避けてたのに。
今じゃこうして帰り道に並んで歩いてるんだから、人生どうなるか分かったもんじゃない。


「剣城ー」

「何だよ」

「私たちって友達だよな?」

「……………」


長い沈黙の後、そうなんじゃねーの、とぶっきらぼうに答えた剣城の耳は面白いくらい真っ赤だった。


やっと答えが聞けた


「ブロマイド、豪炎寺さんだった」

「そうか」

「(うわぁ嬉しそう…)」