その4、下準備
前回までのあらすじ。
新聞部の部費向上を計るため、次の学校新聞で雷門イレブンの特集を組むことにした私こと『女史』。
サッカー部キャプテンの円堂後輩やマネージャーの雷門嬢にも許可を取り、滑り出しは良好である。
「─というワケだ、分かったか諸君」
「はい、部長!」
新聞部の部室にて。
1年と2年の部員を目の前に並ばせて、指令を下す。
「授業中、休み時間。どんなときも調べを怠るな。ただし気付かれないように、自分たちの学校生活に支障が出ないよう心掛けろ!」
「イエス・マム!」
揃った動きで敬礼をする後輩たち。よし、今日も新聞部は絶好調だ。
「女史部長」
「では散開!」号令と共に部員たちを見送ったところで、背中に声をかけられる。
今回の取材に当たって特別にサッカー部から連れ戻した、音無後輩だ。
「ああ、音無後輩。助かったよ、君がいれば取材もはかどる」
「はい、任せてください!」
鼻に乗せた眼鏡を光らせながら、音無後輩はしっかり頷く。
ふむ、やはりこの子は中々の逸材だ。サッカー部に持って行かれたことが少し悔やまれる。まぁ、掛け持ちしてもらってるから良いけど。
「というか、音無後輩。私に何か用だったんじゃないかい?」
「ああ、そうでした。お兄ちゃんのことなんですけど」
「取材対象から抜けてたの、何でですか?」音無後輩は首を傾げて尋ねる。
お兄ちゃん、そういえば、音無後輩は鬼道後輩の妹だったか。
「うん、彼は転校してきて間もないし…それに、中々鋭そうだからね」
それは豪炎寺後輩も然りだが。自然体の彼らを調べたいのに、意識されては元も子もない。
「でも、転校してきて間もないっていうのは一之瀬さんもですよ?」
「アメリカの帰国子女だね?彼もまぁそうだけど、多分大丈夫だと私の勘が言ってる」
と言うか、一之瀬後輩も案外鋭そうだが…彼なら、気付いても敢えて放置してくれそうな予感がする。
「部長の勘は、当たりますからね…。じゃあ、お兄ちゃんのことは特集に出さないんですか?」
「いや?出すよ」
えっ、とまばたきを繰り返す音無後輩。どうやって調べるのか、不思議がっているようだ。
「彼が前いた、帝国学園に知り合いがいてね」
「へぇ、そうだったんですか!」
納得したような音無後輩。
私は愛用の携帯を取り出して、アドレス帳を開く。
この時間帯ならあいつも電話に出れる筈だ。
ワンコール、ツーコール。
三回目が鳴る前に、電話は繋がった。
『─もしもし?』
「ああ、和樹か?」
『何だよ、急に電話なんかして。明日は雨か?』
「うん、お前の憎まれ口も久し振りだな。いやな、ちょっと色々と聞きたいことがあって」
『はぁ。どうせまた、町内新聞がどうのってやつだろ?』
「いや、それより少し規模が小さいな。ともかく、次の休みは暇か?」
『どうせ嘘吐いてもバレるんだろ?暇だよ、日曜日なら』
「だろうな、次の日曜は帝国の練習日じゃない筈だから。じゃあ、二時頃にいつもの場所で」
『はいはい…たっく、相変わらずだな、お前は』
「和樹も相変わらず、話が早くて助かる。全く好ましい限りだ」
『…るっせ』
ぶちっ。ツー、ツー。
何だ、電話は掛けてきた方から切るというマナーを忘れたのか、あいつは。
ふうと息を吐いて携帯をポケットにしまうと、音無後輩がやけに興奮した眼差しをこちらに向けているのに気付いた。
「部長…帝国の知り合いって、彼氏さんだったんですね!?」
「否、違うが」
聞く耳持たない音無後輩。
結局、彼女を説き伏せるのに30分掛かった。