その5、聞き込み

前回までのあらすじ。
学校新聞で雷門サッカー部の特集を組むことにした私こと新聞部部長『女史』。
他のイレブンたちの調べは部員たちに任せ、私は鬼道後輩のことを調べるべく帝国学園に在学する幼なじみに協力を要請した。



「13時55分。五分前行動とは関心だな、和樹」

「遅れるとどっかの誰かがうるさいからな。お前こそ、10分前行動じゃないか」

苦笑、呆れ、その他諸々。色んな表情の入り混じった表情で、彼─恵那和樹は、私の向かいの席に座る。
場所は稲妻町から少し離れた町にある喫茶店。そこのカフェテラスだ。

「それより、この前は言い損ねたけど。お前、平日にあのタイミングで電話掛けてくるなよな」

「ん?何故だ、あの時間帯は丁度帝国サッカー部の練習が終わって、和樹たちが学校を出る頃だろう?」

「…ホント、どうやってそんなこと調べてくるんだか」

今度こそ、和樹は呆れたような顔になった。
私に知らないことは基本的にない、と断言すると、彼は「基本的に、ね」と意味深に反芻する。

「あのさ…そのタイミングだと、まだ友達とかが周りにいるわけだろ?」

「うん」

「それで、その…そういうときに女子から電話とか掛かってくるとだ。色々と誤解が生まれるっていうか…」

「うん?」

珍しくもたついた様子で話す和樹。今一つ要領を得ない語り口だ。
しかし侮ること無かれ、こちとら小学校の1年時からずっと彼の幼なじみをやっているのである。

「成る程。つまりその友達に私が彼女だと勘違いされるから恥ずかしいというわけだな!」

「みなまで言うなよ!!人がせっかく濁して言ってんのにさぁ!」

「つーか何ニヤニヤしてんの!?」バン!と真っ赤な顔でテーブルを叩く和樹。
近くの柵に留まっていた鳩が何羽か、驚いたように飛び去っていく。

「考えてみろ、和樹…空気を読むことが出来ると言うことは、逆に敢えて空気を読まないことも可能なんだ」

「そんな誇らしげな顔で自分をAKYと宣言する奴、お前しかいないだろうよ」

「最近の俗語で言う、どや顔というアレだな」

「ちょっと黙っとけ」

運ばれてきたグラスを傾け、互いに一服。
和樹とは会う度にこんな会話を繰り広げている。そう言えば小学校の時はよく、周りから夫婦漫才だと言われていた(和樹はやっぱり真っ赤になって否定していた)。

「─はぁ。で、本題入ろうぜ。今回は何の話なんだ?」

「そうだったな。実は─」




喫茶店についてから一時間が経過した(その内の30分は和樹をからかうことに費やした)。

「─って、俺が話せることはこれくらいだぞ?鬼道に関してなんて…」

「いやいや、十分さ」

成績優秀、運動神経抜群─という基本情報に加え、ごくまれに天然、ややツッコミタイプ、ゴ[規制音]ブリが少し苦手だという情報をメモ帳に書き込む。
これだけあれば記事も書きやすくなるだろう。

でも、と和樹はリンゴジュースを啜りながら続ける。

「鬼道のことだったら、別に俺じゃなくても良かったんじゃないか?ほら、お前なら知ってるだろ。そっちのサッカー部のマネージャーに元帝国の子がいるの」

「勿論知ってるさ。でも、付き合いの長さなら彼女より和樹のが上だ。それに私が知りたかったのは、帝国時代の鬼道後輩だからな」

「はあ。何でまた」

何でだと。そんなの決まっているじゃないか。

「面白そうだったから!」

「…お前の好奇心って…」

なんだかものすごい疲れた顔をされた。失敬だな。
私の好奇心はゆくゆく面白いものを見つけ出すというのに…と、鼻を鳴らしたところで腕時計に目をやる。

「おお、もうこんな時間か。そろそろ行かなくては─」

「民放の情報番組が始まる、だろ?」

「流石、分かってる」

横目で伝票を伺いつつ、立ち上がった。和樹はまだ、帰るそぶりは見せない。

「金は良いよ。たまにはおごってやる」

「ありがとう。珍しく男前だな、和樹」

「珍しくは余計だ」

「男前だな、和樹!」

「わざわざ言い直すな!」

最後まで、そんな会話を繰り広げて。
私は和樹に手の平を一振りして、喫茶店を後にした。

「─いっつも、振り回されっぱなしなんだよなぁ…」

一拍開けた後で、和樹が頬を桃色に染めてそんなことを呟いたことなど、私は知らない。