5月の半ばという、とても中途半端な時期にこの帝国学園に編入して早5ヶ月。
約半年という月日を重ねても、格調高い雰囲気に中々馴染めず人見知りなせいもあって友達も殆ど出来ないという地味に精神にくる日々を送る私に、それは突然訪れた。

「──御鏡織乃、だな?」
「へっ?」

ある日の昼休み。
食堂の隅っこで1人、ぽつんと学食をつついていた私は、頭上から掛かった声に顔を上げる。
まず目に入ったのがゴーグルにドレッドヘアという奇抜な……あ、いや、特徴のある男子生徒。そして、それに付き従うような形で後ろにつく、強面の男子生徒数名。
何故鬼道様がここに、とポカンとする私の耳に届いたのは、居合わせた誰かの声だ。

鬼道──鬼道有人、さん。
1年生ながら学園のサッカー部をまとめるキャプテンであり、学年一の成績保持者。その名前は、ここで学園生活をしていればいやでも耳に入ってくる。

しかしながら、そんな彼が一体私に何の用があるというのか。
辺りに遠巻きに群がった女の子たちが「サッカー部の人たちどうしたのかしら!」なんて黄色い声で囁き合っているのが見えるので、彼の背後に控えているのはサッカー部の面々なんだろうとは推測が付くが──それでも彼らが私にわざわざ会いに来る理由なんて、ないはずなのに。

成績も普通、体力測定だって平均、目に付くような美人さんでもない上に、クラスでも目立たない(現在進行形で痛いほど注目はされているが)。
そんな女子が、私なわけで。
それとは逆に、学校中から一目置かれ顔面偏差値も非常に高く、何より学園を取り仕切る理事長──通称影山総帥が監督についている唯一の運動部、それが彼らサッカー部なわけで。

……うん。

「(現状が全く分からない……!!)」

誰か助けて!と叫びたいのは山々なのだが友達がいないのでそれも出来ず──何だか泣けてきた──私はただ箸を持ったままの状態で身を縮め、目の前にいる鬼道さんの言葉の続きを待つしか出来ないのである。

「突然な話だが、」
「ふ、ひゃい!」

思いっきり噛んだ。
鬼道さんの後ろにいた眼帯長髪さんがプッと小さく噴き出したのが見えて、更に身を縮こめる。
ああ……穴があったら入りたいとはこのことか。というか寧ろ埋めてください、この状況から逃げ出したいです切実に!!

ごほん、と鬼道さんの小さな咳払いで、私は現実に引き戻される。彼はゆっくりと、持っていた一枚のプリントを差し出しながら、私にこう言った。

「影山総帥の意向により──お前を、帝国サッカー部の1軍マネージャーに任命する」
「え」

カチャン。フォークが机に転がる。
帝国学園サッカー部1軍マネージャーに1年C組御鏡織乃を任命する──眼前に広げられたプリントには、確かにそう書かれていた。
「一緒に来てもらうぞ」そう告げる鬼道さんの表情は、ゴーグルに隠れているせいで伺えないが声音からは有無を言わさぬ迫力が伝わってくる。

後にこの出来事は、私の人生の転機とも言えるとても大きなイベントになるわけだが──今はそんなことを知る由もない私は、ただひたすら呆然と、若しくは唖然としながらそれに従うしか道は無いのであった。

これが全てのプロローグ