そこそこデリケートにできている

※時系列/5章後

今日に至るまで、エルドラドによるサッカー消去および名字名前の捕獲は失敗の一途を辿っていた。
ならば、と新しくプロトコル・オメガのリーダーに就任した彼は考える。今まで我々をしつこく追いかけ、その行動をことごとく邪魔してきた異端分子、雷門イレブン。
この際、自分たちが行動を起こす前に、彼らが動けないように何らかの手を打てば良いのだ、と。

「ふふ、まずは軽いジャブから行こうか……!」




「よーし、今日も頑張るぞ!」

両手を上に突き上げ、大きく天馬が伸びをする。ここ最近の、天馬が気合いを入れる時のルーティーンである。
それでは次の目的地へ、とタイムマシンに乗り込もうとしたところで、物音を聞きつけたフェイがハッと背後を振り向いた。

「ワンダバ、誰か来る!」
「何っ?」

聞くや否や、ワンダバは素早く運転席に滑り込みタイムマシンのステルス機能をオンにする。
ぶぅん、と軽い音を立て見えなくなったタイムマシンから視線を外してフェイの見る方向へ一同が目を向けると、丁度階段を誰かが登ってくるのが見えた。

そして、その姿を真っ先に視認した名前が声を上げる。

「──明王兄さん!」
「よう、お前ら。元気にしてたか?」

それはホーリーロード決勝戦の際、イナズマジャパンのメンバーと共に雷門イレブンの応援に来て以来の長らく会っていなかった不動だった。
実際名前はその数日後に一度不動と会ってはいるのだが、雷門イレブンの面々が彼と対面するのは大会以来であったので割愛する。

「お久しぶりです。今日はどうなさったんですか?」
「あぁ、鬼道の頼みでしばらく日本を離れることになったからな。その前にちょっと可愛い妹分の顔を見に来た」

神童の問いにそう答え、不動は傍らに走り寄ってきた名前の頭をぐりぐりと撫で繰り回した。
「鬼道さんの?」と首を傾げる天馬に、不動はちらりと彼らの背後に建つ部室棟を見上げて続ける。

「今の日本の現状、お前たちなら知らねえわけないだろ。……今の内に、海外で色々根回ししたいことがあんのさ。あの天才ゲームメイカー様にはさ」

日本で可決されてしまったサッカー禁止法はまだ海外で広がっているわけではないが、エルドラドの動きを完全に阻止出来てはいない今、同じような法律が発足されるのは時間の問題だ。
そうならないように、動ける人間が各地で打てる手を打っておく必要がある。──もしくは、これ以上知人たちがエルドラドによる被害に遭わないよう極力自分たちから離しておく──鬼道のことだ、そんな意図もそこには含まれているのかもしれない。

「そんじゃあ、用も済んだことだし──」
『対象を補足、対象を補足。プログラムを実行します』

不動が踵を返したその瞬間、どこぞから無機質な機械の合成音声が響いた。
その音の元を辿るが早く、ふいに足下──正確にはタイムマシンの停まっている辺りの地面から、1本の光が伸びて不動に照射された。

「うわッ!?」
「あっ、明王兄さん!」

ビカ、と眩い光に目がくらみ、思わず瞼を閉じてしまったのも束の間のこと。どすん、と聞こえたのは不動が尻餅でも突いたのだろう、慌てて目を開けそちらを確認した名前たちは、あんぐりと口を丸く開けた。

「ってぇ〜……何なんだ、急に……ん?」

チカチカと光の残像が残る目を擦り、不動は違和感に顔を顰める。
手が袖口から出ていない。よく見るとズボンも何やら弛んでいるし、何より頭部がやけに涼しい。
目の前にいた名前が、その場に膝を突いて口を開く。

「明王兄さんが──明王兄さんが、ハゲた!!」
「禿げじゃねえわ」

今の自分の状態も忘れ、哀れ禿げ──もとい、見た目的には中学生の頃の姿になってしまった不動は、妹分の頭を引っ叩いた。




「ははぁ、今そんなことになってんのか」

かくかくしかじか、まるまるくまぐま。早々とこの不動の若返りがエルドラドの仕業だと見当を付けたフェイや名前たちに事のあらましを聞いた不動は、ぶかぶかになってしまった袖口を捲りながら得心が行ったように頷いている。
流石は頭の良く回るW司令塔の片割れ、と言えば聞こえは良いだろうが、結局のところ不動も名前たちが何らかの事件に巻き込まれていることはとうに察していたのかもしれない。それほどまでに、彼は今の事態をあっさりと飲み込んでいた。

「で? 俺はいつ元に戻れんだ。出来れば飛行機の出る時間までには戻りたいんだがなぁ」
「めちゃくちゃ余裕ありますね明王兄さん」
「これでも厄介事には巻き込まれ慣れてるんでな。今更このくらいで騒ぎゃしねーよ」
「大丈夫、ワンダバが今装置の改造をしてくれてるから5分くらいあれば戻れると思うよ」

答えるフェイの視線の先では、地べたに座り込んだワンダバがタイムマシンの影にこっそりと設置されていた謎の機械を相手にハンダゴテ片手に格闘している。

曰く、その機械は未来で女性向けに作られた美容用の医療器具で、本来であれば肌の張りを20代程の若さに戻すアンチエイジング的な高級アイテムらしく、ここにあるそれはエルドラドにより魔改造を受け光を照射された人間の肌どころか体そのものを若返らせてしまうとんでもない代物だそうだ。

「察するに、俺たちに新たな協力者が出来た時に足止めする為仕掛けられたんだろう。……すいません、不動さん。巻き込んでしまって」
「いーよ、気にすんな。言ったろ、慣れてるって」

頭を下げる神童を軽くいなす不動は、先程と比べれば随分と小柄になってしまった。肉体年齢としては神童と同い年になってしまったのだから、当然のことではある。
自分とほとんど変わらぬ背丈になった不動の顔に目を向けて、名前がぼそりと呟いた。

「ゴッドエデンの時も思いましたけど、中学生の頃の明王兄さんてホントにハゲてたんですね……」
「だぁから、これは剃ってんだって言っただろ。て言うか、お前は散々試合記録で見てる筈だろうが」
「いや画面越しと直接見るのとだと印象が、あ、いひゃいいひゃいいひゃい!」

真顔で言ってのける名前の頬を目一杯引っ張ると、たちまち悲鳴が上がる。
良く伸びる口だなぁ、とニヤニヤしている不動にやや呆れたような目を向けつつも、はてと首を傾げたのは剣城だ。

「不動さんは名字とは昔からの知り合いなんですよね。だったら、中学生の姿も見たことあるはずじゃ……?」
「ああ……いや、俺がこいつと知り合ったのは中学ン時じゃなくて高校上がってしばらくしてからだよ」
「そー、その時はもう明王兄さんも今ほどじゃないけどフサフサでッんきゅうっ!?」
「そうかそうか、名前はそんなにこの頃の俺を禿げキャラにしたいか」

頬から手を離し、脇腹辺りをわしっと擽られた名前が奇声を上げてその場に崩れ落ちる。自業自得だと言う気持ちとちょっぴり羨まけしからんと言う気持ちの入り交じった顔の剣城がそれを助け起こしたところで、ワンダバが大きく声を張り上げた。

「ぃよーし、出来たぞ! ライトを照射するので全員離れてくれ!」
「おっ、ホントに5分で終わったな。見た目の割に有能なクマじゃねーか」
「ワタシはクマではなぁいッ!!」

全員が不動から十分な距離を取ったのを確認し、ワンダバは不動に向け装置を起動する。
眩い光が放たれて、閉じた目を開く頃には、不動はあっという間に元の大人の姿に戻っていた。

「へぇ、案外あっさり戻るもんだな」
「当然だ! 何せこのクラーク・ワンダバットが直々に装置に改良を加え」
「あのまま子供のままだったら、無理言ってお前らの旅に着いていこうかと思ってたわ」
「そんなこと考えてたんですか?」

目を丸くした名前に、「冗談だよ」と笑った不動は来たときと同じくその頭をぐりぐりと撫で繰り回す。
そして、さて、と階段の上に置きっぱなしにしていたバッグを背負うと、安堵に胸を撫で下ろしていた雷門イレブンを肩越しに振り返った。

「じゃ、俺は行くわ。俺は俺に出来ることやっとくから、お前らも頑張れよ」
「は、はいっ! ありがとうございます!」

天馬の元気いっぱいな返事を受けて、軽く片手を振った不動はゆったりとした足取りで去って行く。
それを見送った雷門イレブンもまた、今度こそ次の目的地へ赴くためにタイムマシンに乗り込んでいった。




──一方その頃、未来では。

「チッ……良い作戦だと思ったのに」

施設の廊下を、彼──ガンマが爪を噛みながら足早に歩いている。
さる有名な美容クリニックから無理を言って購入した美顔器に改造を加え、それを使って雷門イレブンの足止めをしたまでは良かった。
しかし肝心の機械はあっさり看破された上、恐らく回収は不可能。それでは2台目の購入を、と進言したところ、思いの外0の数が多かった領収書を見たトウドウに渋い顔をされ、ガンマはこの作戦の続行は不可能だと確信した。
いつの時代であれ、戦争をするには莫大な資金が掛かる。削れるところは削るべし。ガンマの作戦は、予算を割くに値しなかったのである。

「やはり、今までと同じやり方で行くしかないな……全く、スマートじゃない!」

憤慨した彼の大きな独り言が、誰もいない施設の廊下に空しく響いた。