時刻は午後八時。
夕食と入浴を済ませ、いつもならば後は眠るだけとなった状態になったイレブンたちの様子は、今夜ばかりは違っていた。
「─じゃあ、英語は俺と土門、数学は鬼道、社会は織乃、理科は雷門、国語は秋ってことで。OK?」
「おう」
キャラバンの座席の間に板を置いた簡易のテーブルを囲んで、一之瀬が順に名前を呼びながら指を指す。
それぞれが頷いたのを確認し、彼らは手元を覗き込んだ。
─瞳子が監督に就任するに当たって、新しく出来た決まり事が一つある。
『一週間に一回、キチンと勉強すること。学業を疎かにしては、エイリア学園にも勝てないわよ』
よく分からない理論だったが、監督命令なら逆らえる筈もなく、彼らは言いつけ通り一週間に一回、瞳子がいつの間にか仕入れてきたワークで勉強をしている。
─してはいるのだが、ただ一つだけ問題があった。
部員たちの学力は、一部を除けばほぼ平均的である。
その平均点を上げているのは、主に鬼道や夏未、目金。
そして逆に下げているのは─
「円堂くん…そこの問題、間違ってるわよ」
「えっ、どこから」
「初めから」
そんな!と頭を抱えつつ、円堂は筆箱を漁って消しゴムを探し始める。
サッカー一辺倒の円堂の成績が普段からあまり良いと言えないのは、周知の事実だ。
他にも円堂並とまではいかないが、成績のよろしくない部員は何人かいる。
最早その勉強会は、そんな彼らのために開かれていると言っても過言ではなかった。
「なくよ……、ん?鳴かぬなら鳴かせて…?うーん、どうだったッスかね…」
「違うでヤンス壁山、鳴かぬなら鳴くまで待とうでヤンス!」
「どっちも違うって。ころしてしまえ、だろ?」
「はい三人ともハズレ。というかこれ年号問題だからね」
根気よく一年生組に歴史の勉強を教えるのは織乃である(ちなみにこの問題は、『鎌倉幕府の設立は何年か』だ)。
その隣では、染岡が英語の教科書と睨めっこの最中だ。
「英語だけはどうも好きになれねーんだよな…そもそも日本人なのに…」
「まぁまぁ。今ちゃんとやっとけば将来役に立つぜ?」
宥める土門に、染岡は渋りながらも曖昧に頷く。
更にその横では、一之瀬が国語の教科書を片手に顔をしかめていた。
「それだったら、古文とかはあんまり必要ないと思うんだけどな…」
「もう、苦手だからってそんなこと言わないの」
「ほらここ間違ってる」ノートを秋につつかれ、ぐったりとする一之瀬。
十人居れば十通りの短所があるように、普段はエイリア学園を倒すため日々奮闘している彼らも、教科書を目の前にすればただの中学生である。
「単純に学力で言うなら、僕だって教える側に回るべきだと思うんですがねぇ」
「いや、お前は教える側には回らない方が良いと思う…」
合間合間にちょくちょく自慢を挟んでくることは予想できるから─風丸は本音を飲み込み、愚痴る目金をいなしながら次の問題に取りかかった。
円堂に理科を教えていた夏未が教科書をやや乱暴に閉じて、力なく織乃を振り返る。
「御鏡さん、交代して頂戴」
「あ、はい…大丈夫ですか」
どことなく生気を失っている夏未にそう問いかけると、彼女は重たい溜息を吐いた。
「…円堂くんに勉強を教えること事態、間違っているのかもしれないわね…」
─一体、彼に教鞭を奮うのにどれだけの根気が必要なのだろう。
明後日の方を見て自嘲気味に笑う夏未に、織乃はごくりと唾を呑んだ。
円堂に視線をやれば、彼はワークに目を落として固まって、じっと動かない。
問題が解けないからだろうかと一瞬思ったが、よく見ると円堂はこっくりこっくりと船を漕いでいた。
「え、円堂さん起きて!」
彼らの夜は、まだまだ長い。