※鬼道参入前
「─よしっ、今日の練習はここまで!」
休日、河川敷のグラウンド。
グローブをはめた手を大きく打ち鳴らして、円堂が声を掛ける。
それを合図にして、部員たちは糸に引かれたようにベンチへ向かって歩いて行った。
「疲れたー…」
「はい、お疲れ様」
かごを片手に歩いて回るマネージャーたちからドリンクのジャグとタオルを受け取り、彼らは各々好きに座り込んだ。
ユニフォームの裾がグラウンドの土に汚れたが、元々埃まみれなので特に気にする部員は誰もいない。
その時、ぐぅぅ、と誰かの腹の虫が大きく鳴いた。
「腹減ったッス…」
言わずもがな、部員一の大食漢、壁山である。
しかし時刻はちょうど正午。空腹も仕方のないことで、それに釣られたように各方向から腹の虫が鳴く音がした。
「うーん、俺も腹減った…」
「なぁ、せっかくだし監督のトコ行こうぜ」
空腹を抱えて提案するのは半田である。
「ラーメン…餃子…」呟いた壁山が、涎を垂らした。
「でも、こんなに大勢で行ったら迷惑になりませんか?」
織乃が尤もな疑問を投げかけると、「大丈夫だって」と染岡がタオルで頭を拭きながら答える。
「あそこ、昼は人が少えんだ。俺たちが行きゃ、逆に商売になるってもんだろ」
「行きましょうよ、織乃さん!」
どうやら、春奈も空腹だったらしい。
織乃の腕に抱きついた春奈に苦笑して、秋が言った。
「じゃあ…みんなで行きましょうか、雷雷軒!」
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「これはまた…大勢で来たもんだな、円堂」
「へへっ」
菜箸を片手に髭を震わせる響木に、円堂がニカッと笑う。
全員が店にやって来た訳ではないが、十人も部員がやって来れば、決して広いとは言えない雷雷軒の店内はあっという間に一杯になった。
「えーっと、俺チャーシューで!」
「あっ、俺も俺も!」
矢継ぎ早に注文をしてくる円堂たちに軽々と応答して、響木はひときわ大きな鍋にお玉を沈める。
水は各自で用意してくれと、流石に忙しいのか、そう言った響木は鍋を前に仕事に取りかかった。
お絞りで汚れた手を拭い、水を飲む。これだけで疲れが少しだけ無くなったような気がする。
十分ほどして、響木がざるで麺を湯切りし始めた。
「─チャーシュー、出来たぞ。ほら、醤油もな」
「やった!」
「俺もう腹ぺこ…」店内に割り箸をパキンと割る音が響く。
「あ、おいしい」
レンゲに少量の麺とスープを掬って啜った織乃が、ほっこりと笑みを浮かべた。
円堂たちは食べることに忙しいのか、話はせずただひたすら箸を動かしている。
「どうだ御鏡、雷門は」
「え?」
調理器具の整理をしながら、響木が尋ねてきた。
織乃は一瞬周りを見回すと、にっこりと笑う。
「楽しいです、すっごく」
彼女の言葉を聞いた秋と春奈が、嬉しそうに顔を見合わせた。
響木はたっぷり蓄えた髭を震わせて、カラカラと笑う。
「そりゃあ何よりだ。まぁ、帝国の奴らからは嫉妬されちまうかもしれんがな」
「監督、おかわりっス!」
「もう食べたの?」驚く織乃を後目に、壁山から空の丼を受け取った響木は、新しい麺を茹で始めたのだった。