それはある日の放課後、部活の休憩中のことだった。


「…ピザ」

「は?」


不意にそんなことを呟いた円堂に、風丸が目を白黒させながら首を傾げた。
ちょうどその場に居合わせた織乃と春奈も、不思議そうに顔を見合わせ首を傾げる。


「…ピザ、食べたいんですか?円堂さん…」


取りあえず織乃が尋ねてみると、円堂は「えっ?」と声を上げ、違う違うと頭を振った。


「食べたいとかじゃなくてさ、ほら…昨日、帰り道で貰ったんだよ、コレ」


そう言って円堂が取り出したのは、一つのポケットティッシュ。
ビニールカバーの中に、小さなチラシが入っている─よく街中で配られているものだ。


「えーっと、何…?」

「本日開店、本格イタリアンピザ……」


ははぁ、と三人は合点のいったように頷く。
どうやら円堂は、このチラシのことを思い出して、記憶に残った「ピザ」という単語を口に出したらしい。

「ピザ、なぁ」ぼんやりと独り言ちながら、風丸はティッシュを円堂に返す。


「俺、ピザってこってりしすぎてて苦手なんだよなぁ」

「日本のピザって、ジャンクフードって感じが強いですもんね」


苦笑して織乃が言えば、風丸は「ん?」と何か思い出したように彼女の方を見た。


「そういえば…御鏡は、イタリアにいたんだよな」

「え?ああ、はい」


どんなところなんだ?と何となしに尋ねると、織乃の隣にいた春奈が目を光らせる。


「それ、私も興味深いです!ね、織乃さん。イタリアってどんなところなんですか?」

「どんなところ、と言われてもなぁ…」


首を捻り、織乃は考えた。
そもそも国が違うのだから、日本との違いは沢山ある。
だが、いざそうやって聞かれてみると、何から説明すればいいか分からなかった。


「取りあえず…あったかくて、良いところだよ。ご飯とかもおいしいし…優しい人も沢山いて」

「はぁ…イタリアかぁ…」


海を越えた先にある国を想像したのか、円堂がぽやんとした顔になる。
その次に彼が言いそうなことは、容易に想像出来た。


「なぁ、イタリアでは、サッカーやってるヤツには会わなかったのか?」

「会いましたよ」


「ホントか!?」円堂の表情が目に見えて明るくなる。
あまりに分かりやすい幼なじみに、風丸が小さく吹き出したのが見えた。

どんなやつだった、と身を乗り出して尋ねる円堂に、織乃はイタリアの友人たちを思い浮かべる。


「仲良くなったのは4人ですね。みんなそれぞれ違うポジションで…MFの人は、日本の留学生の方でした」

「留学生か!良いなぁ、きっとそいつすげー強いんだろうなー!」


ベンチで足をばたつかせる円堂を見やりながら、春奈が更に尋ねた。


「その人とお兄ちゃん、どっちがサッカー上手でした?」

「それは、分からないよ。試合をしてみないとね」


勿論どっちも上手だけど─と付け加えた織乃に、春奈はにっこりと笑う。
「イタリアか…」風丸が空を仰いで、小さく呟いた。


「やっぱり海外に行ったら、もっと強い奴が沢山いるんだろうな」

「でしょうね…世界って、広いですもん」


当たり前のことが、とても遠くに感じる。彼らはまだまだ日本の、一つの地区の域だって出ていないのだから。


「いつか、そいつらともサッカーやりたいなぁ!」


風丸と同じように空を仰いだ円堂が、顔を綻ばせる。
彼のその願いが叶うのは─もうしばらく、先の話だ。