「夏未さんて、髪キレイですよねぇ…」


事のきっかけは、春奈のこの一言だった。
テントの中、夏未が髪をとかしているのを、ほぅと溜息を吐きながら言う春奈に、自然と織乃たちの視線もそちらへ向く。


「そ、そうかしら…」


夏未は満更でもないらしく、肩に降りた髪の一房をつまみ上げ、しげしげと眺める振りをして緩んだ頬を隠した。
「確かに、そうね」秋が感心したように、ライトの光に艶めく彼女の髪を見やる。


「やっぱり、ケアか何かしてるの?」

「まぁ、一応ね。クセみたいなものかしら…」


とかし方にもコツがあるしね、と夏未は少し嬉しそうに微笑んだ。
ふぅん、と首を傾げた塔子は、自分の髪に視線を向ける。


「あたし、そういうの気にしたことないなぁ…」

「でも、塔子さんの髪もツヤツヤしてキレイですよ?」


触っても良いですか?と了承をとって、織乃は塔子の髪を撫でた。
ビロード生地の上を滑るような感触が、手の平に伝わる。


「良いな、私、髪の毛くせっ毛だから羨ましい…」

「えー?あたし、織乃の髪好きだよ?」


キョトンと小首を傾げた塔子に、織乃は一拍置いて微笑んだ。
旅を始めてから、女子だけでこんな会話をするのは随分と久しぶりなことに思える。

それは他の三人も同じなようで、ヘアピンを枕元に置いていた秋が眉を下げて笑った。


「これが旅の途中じゃなかったら、修学旅行の夜みたいだったのにね」

「ホントですよ!」


いつの間にか夏未の髪をいじっていた春奈が、クワッと目を見開きながら言う。
夏未が驚いて肩を揺らした。


「本当なら、寝る前はこうやっておしゃれの話したり恋愛の話したり、そう言うのに花を咲かせるべきなんですっ」

「そ、そういうものなの?」


「そーです!」しどろもどろ尋ねる夏未に、春奈はきっぱりと肯定する。


「なのに私たちと言えば、寝る前は基本明日の練習の話とかドリンクの分量の話とか洗濯物の話とか…っ」


「色気がなーいっ!」テント内に春奈の叫びが木霊した。
もしかしなくても、キャラバンの男子たちにも聞こえたかもしれない。
「この年で色気は必要ないんじゃないかなぁ…」と控えめに言った織乃に、春奈はジト目をやった。


「織乃さんが言っても説得力ないです…」

「へ?」

春奈の視線は、ぱちくりとまばたきした織乃の顔より下へ向いている。
同じく視線をそちらにやった秋と夏未が、自分の胸元に目を落として、溜息を吐いた。


「…はぁ」

「な、何ですか秋ちゃんたちまで…!」


言い知れぬ疎外感と罪悪感に襲われ、織乃は体をぐっと後ろに引かせる。
その傍らで、塔子が「ふわぁ」と大きな欠伸をした。


「…ま、今の私たちにはこの状態がお似合いかもね」

「そうね」


肩を竦めて言った夏未に、秋が苦笑して頷く。
「もう寝ましょうか」眠りかぶっている塔子を寝袋に誘導しながら、織乃が言った。


「じゃ、おやすみなさい!」

「おやすみー…」


体を縮め、5人は寝袋の中へ潜って行く。
明日も彼女たちの朝は早い。