「王様ゲームしましょう!」
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某日、昼下がり。
織乃の元に、一本の電話が掛かってきた。
「─誕生日?」
健也くんの?と尋ねる織乃に「はい」と答えたのは、帝国の洞面である。
「せっかくだから、本戦出場への前祝いもかねて祝ってやるかってことになって…」
「へぇ…」
織乃は相槌を打ちながら、ベッドに腰掛けた。
昨年までは、誰かの誕生日であってもそれを仲間内で祝うことなどしなかった─否、許されなかったことである。
帝国も呪縛から逃れて少しずつ変わっていっているのだろうと思うと、嬉しく思った。
「で、成神を喜ばせるサプライズとして、織乃先輩を呼ばないかって案が上がったんです!」
「私を?」
キョトンとしながら織乃はオウム返しする。
そうです!と電話越しの洞面は語気を強めた。
「織乃先輩が来てくれたら、あいつも絶対喜びます!」
「そっか…じゃあ、私も参加させてもらおうかな?」
「ぜひ!」
─そんなこんなで、成神の誕生日会に参加することになった織乃。
これが三日前のことである。
そして当日、場所は帝国学園のサッカー部部室。
「織乃さあああああん!!」
織乃は部室へ入るなり、成神に思い切り飛びつかれた。
洞面の提案は見事成功したというわけである。
「すまないな、御鏡」
「良いんですよ」
眉を下げて苦笑を浮かべる鬼道に、織乃は小首を傾げながら笑った。
成神は織乃に抱きついたまま離れようとしない。
そんな彼を佐久間が無理やり引っ剥がし、プレゼントを渡し、食べて飲んで。
少し落ち着いてきたところで、洞面が提案した。
「王様ゲームしましょう!」
─こうして、冒頭へ戻る。
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「王様、ゲーム…だと?」
「はい!あれ、鬼道先輩知らなかったり…?」
「いや…」
洞面の提案に、怪訝そうに眉根を寄せたのは鬼道だけではなかった。
二年と三年。彼らの脳裏に、去年やったクリスマスパーティーでの泥臭い王様ゲームの光景が浮かび上がる。
男同士で手をつながなければならない苦痛と、それを見なければならない苦痛。
佐久間に足蹴にされる辺見とか、辺見とか、辺見とか。
しかし今日の主役はあくまで成神である。
彼らは恐る恐る、成神を伺った。成神は─満面の笑みだ。
「良いじゃん!やりましょうよ、ねっ!」
「………ああ」
はじめからやるつもり満々だったらしい洞面が手早くクジを用意する。
それぞれがそれに手をかけて、自ずとつばを飲み込んだ。
「…待て、やる前にルールを決めよう」
「えー?」
クジを引く直前にそんなことを言い出した源田に、成神と洞面が訝しむような声を上げる。
「ルールって?」
「え、えーっと……そう、変な命令はしないとか」
「変なって?」
「えっ、それは…た、例えば、何番と何番が手をつなぐとか、キスするとか」
「そんなんだと、王様ゲームの意味が半減しちゃいますよ」
全く以て正論である。
説き伏せられてしまった源田に、鬼道たちは密かに舌打ちした。
「じゃあ、行きますよ!……王様だーれだッ!!」
ぱっ、と一斉にクジが引き抜かれる。
王様≠引き抜いたのは─鬼道だった。
「さ、流石鬼道さん!」
「は、早く命令を!」
王様が鬼道と分かった途端、辺見と佐久間がほっとしたのか急に元気になる。
鬼道は数瞬考えた後、ニヤリと笑って言った。
「……3番と10番が、腹筋十回」
「えっ」
何の因果か、3番と10番─佐久間と辺見が腹筋し終わるのを待って、王様ゲームは再開される。
次は、次はまともな命令をする人が王様になりますように─二人は切に願った。
「王様だーれだっ!」
成神のかけ声を合図に、引き抜かれるクジ。
王様の赤いクジを引いたのは、洞面だった。
「やった、僕王様〜」
機嫌良く足をばたつかせる洞面に、一同に僅かに戦慄が走る。
そのマスコットのような愛らしい風貌とは裏腹に、洞面は中々いい性格をしているのだ。
そんな彼が、一体どんな命令を下すのか。
「えーっと、じゃあ〜…1番が6番のほっぺに、ちゅう!」
「え」
真っ先に声を上げたのは織乃だった。
彼女の手には、1番$Uられたクジが握られている。
そして、6番はというと。
「……………」
佐久間に絶対零度の視線を送られ、真っ青になっている辺見だった。
「…えーっと。じゃ、失礼します」
「は!?」
戸惑いがちににじり寄ってきた織乃に、辺見が後ずさる。
お前マジでやる気かよ!と声を裏返す辺見に、織乃は「だってそういうゲームですし」と困った顔をした。
「織乃さん早まらないで下さい、ハゲが移りますよ!?」
「移るか!!」
「そ、それはやだな…」
「おいこらヒヨコ!!」
二転三転あり、結局命令は破棄されることになった。
クジを混ぜながら、洞面はつまらなさそうに唇を尖らせる。
「せっかく王様になったのになぁ…」
「まぁまぁ、そう言うな」
洞面を宥めながら、源田がクジを差し出す。
次は一体誰が王様になるというのか。
「王様だーれだっ!」
洞面のかけ声に、引き抜かれるクジ。
王様の赤いクジを握りしめ、ガッツポーズをとったのは、成神だった。
「やっと俺にきたぁーっ!」
「おいおい、変な命令すんなよ!?」
「分かってますって!」大きく咳払いをした成神は、居住まいを正す。
そして部員たちを見回した。
「…命令は、全員が王様の話を茶化さず聞くことです!」
「は?」
怪訝そうに目を細めた咲山を、寺門が小突いて黙らせる。
すぅっと息を吸った成神は、改めて口を開いた。
「…今日は、誕生日会開いてくれてありがとうございました!俺、マジで嬉しいです!!」
はきはきとした声が、部室に反響する。
一瞬の沈黙の後、鬼道がふっと笑った。
「そういうのは、最後に取っておくものじゃないのか?」
「最後に言うのはこっぱずかしいから今言ったんです!」
頬を真っ赤にしてぷりぷりと怒る成神の頭を、源田がわしゃわしゃとかき混ぜる。
やめて下さいよ、と膨れ面になりながら織乃に抱きつく成神に、笑い声が部室に溢れた。
「さ、仕切り直しです!」
「えっ、まだやるの?」