打倒エイリア学園を掲げ、旅立ったその翌日。
円堂と豪炎寺、そして鬼道は、休憩中の誰もいないキャラバンの車内で、じっと黙りこくっていた。


「特訓は勿論だが、頭も使わなければ奴らには勝てないぞ?」


─ということで、こうして頭を捻っているのである。
三人寄れば何とやら。何か一つでも良い案が浮かべばと思っていたのだが。


「─だぁッ!ダメだ!」


頭をぐしゃぐしゃとかきむしり、円堂が天井を仰ぐ。
後の二人も、詰めていた息をゆっくりと長く吐き出した。

─思い浮かばない。
ジェミニストームに対抗する戦術が、物の一つも。

円堂が我慢ならないように、席から勢い良く立ち上がる。


「やっぱり特訓しかない!」

「円堂…鬼道の話、聞いてただろ?」


頭も使わなきゃ勝てないって─豪炎寺が少し呆れた声音で諫めれば、円堂は渋々腰を下ろした。
でもさぁ、と唇を尖らせる円堂は、窓の外を見つめる。


「どーしても思いつかないんだもんなぁ…」

「…もしも、あの試合を御鏡が見ていたら、何か意見をくれたかもしれないが…」


溜息を吐くように言いながら、鬼道は眉間を揉んだ。
そんな矢先、ふとキャラバンの扉が開く音がする。


「─入りますよー」


中を伺いながらやってきたのは、秋を伴った織乃だった。
二人とも、三人分の昼食のサンドイッチと飲み物を腕に抱えている。


「何か良い案浮かんだ?」

「なーんにも…」


秋からペットボトルを受け取りながら、円堂がグッタリと背もたれに体重を掛けた。
苦笑する秋の傍らで、織乃は少し困った顔をしながら鬼道の方を見やる。


「あの時の試合の映像記録なんかは、残ってないんですよね?」

「ああ。何しろ急だったからな…春奈のDVDカメラも、丁度バッテリー切れだったらしい」


言うと、織乃はがっくりとうなだれた。
「役に立てなくてすいません…」溜息を吐いた織乃に、鬼道は眉を下げた。


「謝るな。こればかりはどうしようもないだろう」

「それはそう、ですけど」


歯切れ悪く返した織乃が、もう一つ溜息を零す。
何か考え込んでいた豪炎寺が、ふと口を開いた。


「戦術が思いつかないなら、やっぱりチームの方を調整するしかないな…」

「じゃあ、とっく「違う」


円堂がうなだれる。
鬼道はそれを後目に、織乃を振り仰いだ。


「御鏡、いつものデータはあるか」

「え?あ、アレですね」


持ってきます、とその場を離れる織乃に、豪炎寺が「アレ?」と首を傾げると、鬼道はサンドイッチにかじり付きながら答える。


「あいつがいつも付けている、チームの調整データだ。俺がゲームメイクするのにも使っている」

「アレ≠ナ伝わるんだ…」


小さく秋が呟いていると、織乃がバインダーを片手に戻ってきた。
手渡されたそれに挟まる紙を数枚捲り、鬼道は頷く。


「ああ、あと…」

「はい、世宇子戦までの試合記録です」


言い掛けたところで渡された書類の束に、鬼道は満足げにもう一つ頷いた。
それをぼんやりと眺めていた円堂が、「はーっ」と大きな息を吐き出す。


「すっげぇなー御鏡。言わなくても分かるんだ」

「えっ?」


キョトンと顔を見合わせた鬼道と織乃に、円堂はニカッと歯を見せて笑いかける。


「言葉にしなくても伝わるとか、何か、熟年夫婦みたいだよなっ」

「ふっ…」


二人が真っ赤になると同時に、秋が小さく噴き出した。
豪炎寺はツボに入ったのか、体をくの字に曲げて必死に笑いを堪えている。


「そっ…そそそそんなことないですよ!ただ単にホラ、慣れてるからってだけで…!」

「ん〜、そうか?」

「そうだ、って…おい、二人とも!笑うな!!」

「す、すま…」


秋と豪炎寺は、二人の慌てように既に笑い死に寸前だ。
鬼道たちはお互い真っ赤になった顔を合わせることも出来ないまま、うまい否定の言葉を探してあくせくしている。


「あれ?熟年夫婦じゃなくて、おしどり夫婦って言うんだったっけ…?」

「良いから、早くその単語から離れろ円堂!!」