雷門サッカー部の備品の買い出しは、主にマネージャー四人のローテーションだ。
そして荷物持ちには、その都度一人か二人、選手が駆り出される。
「なんか、ごめんねカズくん…入部したばっかりなのに」
「仕方ないって。俺がジャンケンで負けたせいだよ」
申し訳なさそうな顔をしている織乃の隣をカラカラと笑って歩くのは、つい昨日正式に雷門サッカー部に入った一之瀬だ。
彼のポケットには、秋から手渡された買い物リストが入っている。
「それにこういうのって、いつ入ったかとか関係ないだろ?」
「ん…まぁ、それもそうか」
しぶしぶ納得して、織乃は商店街のアーケードを潜った。
稲妻町で一番大きなこの商店街は、時間帯も相まって買い物客で賑わっている。
きっとあとしばらくすれば、監督である響木の店も、常連客で一杯になるのだろう。
「この時間帯は薬局でセールしてる筈だから…まずは医療品からね」
「詳しいね、織乃」
そう言って一之瀬が笑うと、隣からは少し乾いた笑いが返ってきた。
彼女もだてに、度々母の代わりに商店街と言う名の戦場に繰り出していない。
商店街のどの店が何時に安くなるか熟知している─そうは言っても、おばさん臭いと言われそうなので誰にも話したことはないのだが。
入った薬局の店先で品を探し始めた彼女の後ろに着いていきながら、ふいに一之瀬がぽつりと零す。
「…織乃、気にしてくれてるんだろ?体のこと」
「え?」
絆創膏の箱を握りしめながら、織乃が振り返った。
そんな彼女に一之瀬は、穏やかに眉を下げて笑ってみせる。
「違った?」
「…ううん。ごめんね」
「謝らなくて良いよ」少しうなだれた織乃の肩を叩いて一之瀬は小さく深呼吸をした。
嗅ぎなれた、薬のにおい。
忘れることもないのだろう。
この数日で、織乃は一之瀬が元気に走り回る姿をその目でしかと見ていた。
だから今更気にすることでもないのだろうが、どうしても彼女の脳裏には、車いすや松葉杖に頼って歩く彼の姿が思い出される。
また、ひょんなことで彼が再びあんな体になったらどうしよう─どうしても、思考がそう繋がってしまうのだ。
眉を下げた織乃に、一之瀬はにっこりと笑いかける。
「俺はもうこんなにピンピンしてるんだからさ。荷物持ちだって、ちゃんと出来るよ」
胸を張って言ってのけた彼に一瞬キョトンとした織乃は、少ししてから小さく笑った。
─そうだ。今の彼は、怪我なんかに苛まれていない。
周りにいる人間と何一つ変わらない、サッカーが好きな少年だ。
「…そうだね。なら早く買い物済ませて、練習に参加しなきゃ!」
「ああ!」
「で、買う物は…」改めてポケットからメモを取り出した一之瀬は、次の瞬間絶句した。
織乃はというと、買う物は大体頭の中に入っているらしく、躊躇なく買い物籠に品物を入れていく。
「あの、織乃…何だか買う物のリストが、やけに長いような…?」
「ん?そんなことないけど…ああ、カズくんもしかして、まだちゃんとメモ見てなかった?」
こくこくと頷く一之瀬に、彼女は品物を探す手は止めないまま、にっこりと笑った。
「雷門サッカー部は備品の消費が激しいから、買う物も一杯だよ?頑張ってね、荷物持ちさん」
笑顔になった織乃から、何か妙な威圧感を感じる。
そして彼は、ふと思い出した。
荷物持ちのジャンケンに勝った何人かが、異様なほど喜びを見せていたことに。
「さ、次はペンギーゴね!」
「おー…」
いきいきしだした織乃に逆らうことも出来ず、一之瀬はのろのろと拳を突き上げたのだった。